朝から雨の日。
寒い冬の雨は、より寒々しい。
自由に部屋の中、廊下のウォーキングができるようにはなったが、入院していること自体が不自由だ。
雨となると窓から見える外の景色もグレーのモノトーンだ。
そんな中、妻が面会に来てくれた。
恐らくここに入院中で最後の面会になるのでは。
退院日は聞いていないが、そう遠くはないはずだ。
少しだけの着替えやタオルの入れ替えぐらいか。
妻は次の転院先の事を考え、荷物を補充をしてくれた。
あと自分はバンドを組んでおり、ドラムをやっている。
高校時代からやり始めたが高校を卒業して以来マトモに叩いていなかった。
10年くらい前からバンドを組み直し再びスティックを振る事になった。
妻が何かのリハビリになればとスティックを持ってきてくれた。
とても、とても嬉しく笑みがこぼれた。
右手は正常だが、麻痺のある左手の動きはどうか。
丁度部屋に理学療法士さんが来られ、いいですね、こういう事は積極的にやっていきましょう、リハビリにもいいですし、私の娘も小学校の活動でちょっとドラムを叩くんですよ、と。
また共通の話題が出来、話が盛り上がり楽しく話が弾んだ。
このスティックの感触。
乾いた音。
嬉しかった。
果たして振れるのか不安で持つのが一瞬怖かったが、やはり麻痺していた左手で持つスティックはおぼつかない。
右手でダブルストロークをやってみる。
右手は全く問題ない。
左手ではどうか。
やってみると微妙だが全く出来ない事はない。
小指が一番麻痺が強く、薬指、中指の順で麻痺がある。
なので中指と薬指を細かく動かすダブルストロークは難ありだ。
親指、人差し指は麻痺はない。
幸いスティックは主に親指と人差し指で支えている。
中指は添えているだけだ。
大まかなストロークで見れば振れているように感じる。
16ビートの左手アクセントも出来る。
自分が思っている以上に回復している。
これだけでもドラムはなんとか諦めずにすむかなと思える感覚があった。
リハビリを頑張ってなんとかしたいと思った。
理学療法士さんからも続けていけるよう励ましてもらった。
これからもどんどん降っていこうと思い、スティックを持ってきてくれた妻に感謝した。
妻もこの理学療法士さんにとても信頼出来ているようで、なんでも話せるような雰囲気だった。
こうして短い面会を終え妻は帰った。
外はまだ雨。
行院の駐車場は満車の為、すぐ隣のホームセンターの駐車場に停めていた。
スマホに電話があり、今どこにいるか見えるか尋ねてきた。
すぐ目の前にある駐車場に多くのクルマがあるが、妻のクルマを見つけられない。
見えない。
まさに壊れたモニタを見ているような見え方だ。
映像が崩れ視野が欠けている。
ダメだ、見えない、と伝えるしかなかった。
目立つ色のクルマではないが最後まで見つけられず落ち込んだ。
時が経てばある程度回復するのだろうか。
視野のリハビリとかはあるのだろうか。
治療方はあるのだろうか。
またジェットコースターのような気持ちのアップダウン。
気がおかしくなりそうだ。
先の見えない自分に不安100%だった。