とうとうこの日が来た。
今日は手術日だ。
毎朝妻から電話があるが今日は仕事を休み、主治医から手術前の最後の説明を一緒に聞いてもらい、手術中は家族の控室で待機してくれる。
手術の様子をモニタに映し出すので、モニタ越しではあるが終わるまで見守っていてくれる。
ちなみに妻は看護士だ。
自分の夫の心臓手術なんて普通ではなかなか見れるものではないと思うが、妻は観たいと言っている。
だって心臓手術なんて、なかなか観れないよ、と妻。
さすが妻だ。
自分なら、とても観れたもんじゃない。
看護士、母、女性は強い。
午前10時から手術予定で9時から手術前の説明が行われる。
それに間に合うよう8時には妻が来てくれた。
コロナ禍ではあるが、手術という事で家族は院内に入れた。
とても混雑していたようで、朝の忙しさがよく伝わってきた。
妻はいつもと変わりなく笑顔でいてくれ、心配で不安な様子は出さすにいてくれた。
本当にここまで来れば自分も案外普通でいられるものだなと落ち着いて現実を受け入れられた。
看護士さんもいつもと同じ日常だ。
いつものように毎朝の工程をすませて、9時と10時前には迎えにきますね。車椅子で移動するので、と。
いよいよか。
不思議と落ち着いている。
自分はひどく弱音を吐くし臆病者だ。
こんな手術なんて以前は受け入れられなかったはずだ。
ここまで潔く来れたのは妻や息子達、家族がいてくれたからだ。
これしかない。
自分独りでは無理だった。
まだまだ元気で一緒に時間を共にしたい、この一心だ。
それこそ大きな勇気を与えてくれた。
乗り越えよう。
大丈夫、眠っている間に先生やスタッフの方が修復してくれる。
目覚めたら全て上手くいっている、と。
こんな事だけを考えるようにして今日まで来れた。
押し潰されそうな時も家族とのひとときで救われた。
だから大丈夫。
妻も笑顔だ。
9時になった。
主治医の待つ部屋へ妻と2人で向かった。
今日で主治医と顔を合わせるのは4、5回目かな。
モニタや心臓の模型を使いながら説明を受ける。
前回と同じ説明で認識の違いはない。
それは安心につながる。
心臓が止まっている時間は5時間くらいのようだ。
本当に再起動するのかと、また少しだけ不安がよぎる。
先生は、大丈夫、心配ないでしょう、とリスクの説明も短めに一通り終わらせた。
ここで本当に患者を不安にさせるようにはしないであろう。
あくまで医師として手術のリスクを説明をしてくれたのだ。
先生もこの手術も日常なのだろう。
いつもと変わらず、物静かで表情を表に出さない。
それがより安心させてくれた。
妻も一緒に確認しながら30分ほどの説明が終わり、先生に宜しくお願いします、と言って部屋を出た。
病室に帰り時を待つ。
最後の準備がある。
手術には下着にパンツを穿かずT字帯というものを身に着けるよう言われていた。
要するに、ふんどしのようなものだ。
尿管に管を入れたり、陰部横の太い血管からも管を入れ心臓カテーテルを行うという。
尿道カテーテルは術後もしばらく入ったままらしい。
起きてトイレにも行けないのだし、オムツでは不衛生だ。
心臓カテーテルとはこんなにも遠くから入れるのかと。
しかも陰部横からとは。
妻とT字帯の感じを見ながら時間をやり過ごした。
もうほとんど時間はない。
妻と一緒に時を刻み時間の経過を共にした。
入院時から出された漢方薬が効いているのか不安間は無く平静でその時を迎えた。
コンコンとノックが。
看護士さんが迎えに来られ、時間が来たので手術室に行きましょうか。
優しく声を掛けられ車椅子で部屋を押し出してくれた。
フロアの違う手術室へエレベータを使い移動だ。
ドアが開き移動、手術室前まで来た。
ここで妻とのお別れだ。
がんばって、と笑顔で見送ってくれた。
車椅子を押されどんどん進む。
手術室のドアが開き中へ。
ここが手術室か。
想像していたよりは暗く緑っぽい印象だ。
テレビで観るイメージとは薄暗く手術台上の照明の光量が目に入る。
スタッフの方も大勢スタンバってくれている。
緊張感というか緊迫感というか、テキパキ準備されている。
15人前後の方がいるだろうか。
自分一人の為に、これだけの方が1日費やしてくれる。
大丈夫、と最後に自分に言い聞かせて、思わず大きな声が出た。
今日は宜しくお願いします、と言いと大勢のスタッフも、よろしくお願いします、と返してくれた。
手術台の横に車椅子を付けてもらい台へ移動するよう指示された。
ここは自分で乗るのかと、想像よりも狭くて小さい台に寝転んだ。
落ちそうなくらい小さな台だ。
横になるとすぐに数名のスタッフが自分を取り囲む。
しかもテープをビリビリ出しながら。
そのテープを自分にどんどん貼っていく。
シートを体に貼っているのだ。
横になって1分も経っていないだろう・・・・・