手術日が決定したのだ。

他人の手術にはたいして気にも留めず、いざ自分ごとになると恐怖で一杯だ。

この恐怖に打ち勝つにはどうすればいいのか。

手術前のカウンセリングとかないのだろうか。

みんなどうしているのだろうか。

そんな心の強い人ばかりではないだろうに。

でも元気になりたい。

この先も元気でいたい。

52歳でこんな病気が自分がなるとは。

いわゆる弁膜症は高齢者の病気のイメージだったが、まさか自分がこの病気で心臓手術するとは。

こんな事を毎日思いながら、手術までの日々を過ごしていくのだ。

 

体にも変化が見られる。

体を使った作業については無理がきかなくなった。

筋力を使うと体がだるくて動けなくなる。

手足の先まで血液が巡ってないような感覚。

数時間動けなくなる。

血中の酸素が足りてないのか、ダラっとしたまま何もできない。

こんな状態なのでいつもやっている事ができないのは辛い。

 

ある日テレビで病気の人について密着した番組があった。

まだ子どもだ。

こんなちいさな子が懸命に病気と戦っている。

親御さんも一緒に戦っていて笑顔まで見せる。

長い闘病生活なのだろう。

とても優しく強い語る言葉や表情は自分に喝を入れてくれる。

こんな小さな子が頑張っているのに、と。

落ち込む心を上向きにしてくれる内容に涙ながらに観てしまう。

もともと涙腺が弱い自分が手術が決まった日から一段と涙もろくなった。

とりあえず自分は不治の病ではない。

ほっとけば高い確率で心不全の恐れがあるというが、自分は治してもらえば生きながらえるのだ。

ただ手術が怖いだけなのだ。

やはり自分は弱い。

とても弱い人間だ。

こんなふうに落ち込み勇気をもらい、また落ち込む。

ジェットコースターのような気分の浮き沈みを繰り返す日々。

 

入院の準備も少しずつ進める。

妻が必要な物リストをつくってくれた。

まずキャリーケースだ。

診察時に恐らく退院した方なのだろう、コロコロと大きめのキャリーケースを運ぶ人。

病院からもらった持ち物リストを参考に揃えていく。

周りの人からもアドバイスをもらい揃えていく。

入院まで日数がありよかった。

十分に検討しながら、お得な物を揃えられた。

入院という短期間で使う物、入院後は使わない物等、安く済ませるものはそれに越したことはない。

100均も大活躍。

ちょっとした旅行気分にもさせてくれた。

これらを2ヶ月かけ、ゆっくり準備を進めた。

全て妻のおかげだ。

自分独りではとてもできない。

自分では例えば旅行の計画も準備も何も独りでは出来ない。

全て妻に任せっきりだった。

入院、手術という状況になって余計に冷静で考えられない。

本当に心強い。

感謝しかない。

自分独りでは手術に病気にでさえ向き合えない。

そんな弱い弱い自分に妻が一緒に歩んで支えてくれる。

体がしんどい時も無理をさせないようにしてくれた。

晩酌でお酒を飲むと動悸が激しくなりしんどくなるので、お酒も一緒にやめてくれた。

因みに妻はお酒が大好きだ。

俺より強いし、仕事のストレスが発散できるようだ。

飲めばいいよ、と言っても一切口にしなかった。

楽しみを奪ったようで申し訳ない気持ちだ。

結婚して24年。

本当に妻が居てくれて良かったと、こんな状況になって染み染み思うダメダメな自分を再確認した。

 

手術決定後、仕事中動悸が何時間も続き帰宅しても治らない日があった。

これはおかしい。

19時頃、病院に電話して症状を訴え問い合わせるが、夜間は当直の先生しかおらず、しかも救急車で来てもらわないと診れない。恐らく薬を出して終わるんじゃないかと。

妻と話し合い、それなら様子をみようと。

夕食後しばらくして動悸は治った。

恐怖だった。

 

翌日、病院へ診察の予約。

院長である主治医の先生の診察は無い日であるが、怖いので違う先生でも出来るだけ早く診てもらいたい。

副院長の先生に予約を入れた。

診察当日、状況を話し自分の心配事を聞いてもらった。

既に手術前の検査を済ませており、さまざまなデータが揃っている。

それに目を通し先生は言う。

そんなに気にしなくても多分大丈夫。他の数値は問題ない。心不全のリスクがある人はこんな条件ていうデータがあって、と資料を見せてくれた。

それに目を通すと確かに。

自分にはほとんど当て嵌まらない。

この先生も優しく語りかけるように話してくれる。

こちらの心も落ち着かせてくれるチカラがあるように感じる。

まさに白衣マジックである。

とりあえず、こんな時に飲む薬を出してもらっての処置で済んだ。

 

こんな日々を入院までの時間をすごした。

過ごす中で時折手術が待ち遠しいと思える時が増えてきた。

それだけしんどい時が、辛い日が多くなってきたのだ。