電子辞書 | 昨日と同じかもしれない今日

電子辞書

ウチの校則に、「学業に不要なものは校内持ちこみ禁止」というのがある。

よく考えるとなかなか微妙な校則だけど、もちろん、師弟ともによく考えてみたりはしない(倒)


そんなわけで、ゲーム機や音楽プレーヤーやマンガやトランプなどを学校にもってきてはいけないのだった。

といっても、持ち物検査をするわけではないので、ようするにカバンから出さなければ教員のツッコミが入ることはまずない。

だから、叱られるのは、そういうモノをぼーっと持ってきて、ぼーっとカバンから出して、ぼーっと使っているぼーっとした少年少女たちなのだった。


で、ウチのクラスのいちねんせい少年の電子辞書が没収され、担任の私のところに届けられた。

電子辞書そのものは禁止物品ではないのだけど、最近のソレは無駄に多機能になっていて、どうも音楽を聴くことができるらしい。

どんな音楽をどう聴けるのかは分からないが、とにかくその少年は教室でソレを使い、友人たちを大いに楽しませているところを、通りすがりの教員に見つかったというのだった(嘆)


帰りのHRをするために教室に入ると、早速その少年がとことこやってきた。


「せんせい、俺の電子辞書……」


なんといってもぼーっとした少年だから、放っておけば、ぼーっと単語だけでしゃべろうとする。

そのまま彼が口を閉じたので、私も口を閉じていた。

数十秒後、ようやく少年はもっとちゃんと説明しなければいけないのだ!ということに思い至ったらしく、再び口を開いた。


「せんせい、俺の電子辞書が没収されて、せんせいのところに届いていると思うんですけど」

「届いていません」

「え?!」

「あなたの音楽プレーヤーなら届いていますが」

「あ、それです、それ、電子辞書なんです」

「それは、辞書として使っているときの話でしょう。私が受け取ったのは音楽プレーヤーだと思います」

「いや、辞書なんです!」

「辞書で音楽は聴けませんね」

「聴けるんですよ、俺の辞書は-!」


しかたがないので、棚の国語辞典を少年に渡してみた。


「よくわからないですが、できるというのならどうぞ音楽を鳴らしてみてください」


周囲にいた少年たちが、馬鹿だなオマエなんで謝らないんだよー!と爆笑しながら忠告し、やっと少年はソレを「辞書だから違反ではない、返してほしい」と言い張るのが得策でないことに気付いたのだった(しみじみ)


少年はしどろもどろになんとか謝ろうとし始めたのだけど、やはり混乱しているからか、うまくいかない。

HRを始めなければいけないし、まあゆっくり考えてから来なさい、と席に着かせたのだった。


それが、かれこれ一昨日のこと(倒)


彼の電子辞書は職員室内の鍵のかかる場所で大切に保管してある。

保管したところで、なんとなく安心した担任はそのことをすっかり忘れてしまっていたのだった♪


なにぶん、ぼーっとした少年だから、彼もまたぼーっとそのことを忘れてしまっているのか。

それとも、どう謝ったらいいものか、まだ考え中なのか(悩)


明日、聞いてみなければならないのだった(しみじみ)<もし覚えていれば!<待って(涙)