1976年7月に発表された細野晴臣の3作目となるスタジオ・アルバム「泰安洋行」です。前作「トロピカル・ダンディー」、次作「はらいそ」と並ぶトロピカル三部作の一枚ですが、その三部作の中でも傑作の誉れが高く、根強い人気を誇る名盤です。
何といっても2020年には「追憶の泰安洋行~細野晴臣が76年に残した名盤の深層を探る」などという書籍まで出ているほどです。大ヒットしたわけでもないアルバムにこんな書籍が出版されているということに、このアルバムの歴史的な価値の高さが現れています。
細野はこのアルバムを「チャンキー・サウンド」と呼んでいます。チャンキーという言葉はその後もしばしば見かけますが、細野の造語のようです。ちゃんこ鍋とファンキーを合体した言葉で、ニューオーリンズの名物料理「ガンボ」に対する「ちゃんこ鍋」なんだそうです。
その言葉通り、細野の音楽的ルーツでもあるニューオーリンズ風味が感じられますが、それ以上に大きな存在感を示しているのは沖縄の音楽です。しばしばニューオーリンズと沖縄の合体などと言われる所以です。さらに多様な要素が詰まっているので単純化しすぎですが。
本作品が発表されたのは1976年、沖縄が本土に復帰してからまだ4年しか経っておらず、まだまだ沖縄は遠い場所でした。しかし、この年には具志堅用高がホセ・グスマンを破って世界チャンピオンになるという大きな事件があり、沖縄と本土との距離が一気に縮まりました。
細野は本作品の前年に発表された久保田麻琴と夕焼け楽団による「ハワイ・チャンプルー」に参加しています。これはハワイと沖縄をチャンプルーした作品で、本作品にも引用されている「ハイサイおじさん」も収録されています。細野は沖縄音楽に十分馴染んでいたわけです。
本作品では、細野が沖縄料理屋さんでスカウトしたという川田琉球舞踊団がコーラスで参加しており、本物の沖縄の風を持ち込んでいます。意外なことに、他の参加ミュージシャンはいずれもいつものメンバーで、沖縄ネイティブは舞踊団だけです。
アルバムはその川田琉球舞踊団が活躍する「蝶々-San」で始まります。この曲では大瀧詠一と山下達郎が変名で参加していることが話題ですが、いきなりニューオーリンズ・ミーツ・沖縄といった風情でアルバムの空気を決定付けています。いい歌です。
続いてカバー曲が二曲、「スターダスト」のホーギー・カーマイケル作の「香港ブルース」と、50年代の米国の曲「サヨナラ」です。まあ渋い曲を選んだものです。この二曲以外はすべて細野のオリジナルですが、これら二曲と並んでも何の違和感もありません。
演奏陣は前作同様、ティン・パン・アレーの鈴木茂、林立夫、佐藤博に加えてパーカッションの浜口茂外也などです。また、ピアノは矢野顕子が担当している他、コーラスに大瀧と山下に加えて大貫妙子や久保田麻琴、小坂忠などが参加してお祭り感を醸し出しています。
発表当時は一般的な人気はありませんでしたけれども、大衆音楽の本質たるごった煮のミクスチャー感覚に横溢している作品ですから軽く時を越えています。この作品もまた当時を思い出して懐かしむのではなく、普遍的な大衆音楽の傑作として今に生きています。
Bon Voyage Co. / Haruomi Hosono (1976 日本クラウン)
Tracks:
01. 蝶々-San
02. 香港 Blues
03. "Sayonara", The Japanese Farewell Song
04. Roochoo Gumbo
05. 泰安洋行
06. 東京 Shyness Boy
07. Black Peanuts
08. Chow Chow Dog
09. Pom Pom 蒸気
10. Exotica Lullaby
Personnel:
細野晴臣 : vocal, bass, marimba, steelpan, 三味線,
vibraphone, piano, organ
鈴木茂 : guitar, chorus
林立夫 : drums, percussion, chorus
矢野顕子 : piano, chorus
浜口茂外也 : percussion
佐藤博 : piano, clavinet
岡田徹 : percussion, accordion
谷口邦夫 : steel guitar
岡崎弘 : alto sax
村岡建 : tenor sax
砂原稜三 : bass sax
山下達郎、大瀧詠一、小坂忠、大貫妙子、久保田麻琴、中根康旨、市橋一宏 : chorus
川田琉球舞踊団
何といっても2020年には「追憶の泰安洋行~細野晴臣が76年に残した名盤の深層を探る」などという書籍まで出ているほどです。大ヒットしたわけでもないアルバムにこんな書籍が出版されているということに、このアルバムの歴史的な価値の高さが現れています。
細野はこのアルバムを「チャンキー・サウンド」と呼んでいます。チャンキーという言葉はその後もしばしば見かけますが、細野の造語のようです。ちゃんこ鍋とファンキーを合体した言葉で、ニューオーリンズの名物料理「ガンボ」に対する「ちゃんこ鍋」なんだそうです。
その言葉通り、細野の音楽的ルーツでもあるニューオーリンズ風味が感じられますが、それ以上に大きな存在感を示しているのは沖縄の音楽です。しばしばニューオーリンズと沖縄の合体などと言われる所以です。さらに多様な要素が詰まっているので単純化しすぎですが。
本作品が発表されたのは1976年、沖縄が本土に復帰してからまだ4年しか経っておらず、まだまだ沖縄は遠い場所でした。しかし、この年には具志堅用高がホセ・グスマンを破って世界チャンピオンになるという大きな事件があり、沖縄と本土との距離が一気に縮まりました。
細野は本作品の前年に発表された久保田麻琴と夕焼け楽団による「ハワイ・チャンプルー」に参加しています。これはハワイと沖縄をチャンプルーした作品で、本作品にも引用されている「ハイサイおじさん」も収録されています。細野は沖縄音楽に十分馴染んでいたわけです。
本作品では、細野が沖縄料理屋さんでスカウトしたという川田琉球舞踊団がコーラスで参加しており、本物の沖縄の風を持ち込んでいます。意外なことに、他の参加ミュージシャンはいずれもいつものメンバーで、沖縄ネイティブは舞踊団だけです。
アルバムはその川田琉球舞踊団が活躍する「蝶々-San」で始まります。この曲では大瀧詠一と山下達郎が変名で参加していることが話題ですが、いきなりニューオーリンズ・ミーツ・沖縄といった風情でアルバムの空気を決定付けています。いい歌です。
続いてカバー曲が二曲、「スターダスト」のホーギー・カーマイケル作の「香港ブルース」と、50年代の米国の曲「サヨナラ」です。まあ渋い曲を選んだものです。この二曲以外はすべて細野のオリジナルですが、これら二曲と並んでも何の違和感もありません。
演奏陣は前作同様、ティン・パン・アレーの鈴木茂、林立夫、佐藤博に加えてパーカッションの浜口茂外也などです。また、ピアノは矢野顕子が担当している他、コーラスに大瀧と山下に加えて大貫妙子や久保田麻琴、小坂忠などが参加してお祭り感を醸し出しています。
発表当時は一般的な人気はありませんでしたけれども、大衆音楽の本質たるごった煮のミクスチャー感覚に横溢している作品ですから軽く時を越えています。この作品もまた当時を思い出して懐かしむのではなく、普遍的な大衆音楽の傑作として今に生きています。
Bon Voyage Co. / Haruomi Hosono (1976 日本クラウン)
Tracks:
01. 蝶々-San
02. 香港 Blues
03. "Sayonara", The Japanese Farewell Song
04. Roochoo Gumbo
05. 泰安洋行
06. 東京 Shyness Boy
07. Black Peanuts
08. Chow Chow Dog
09. Pom Pom 蒸気
10. Exotica Lullaby
Personnel:
細野晴臣 : vocal, bass, marimba, steelpan, 三味線,
vibraphone, piano, organ
鈴木茂 : guitar, chorus
林立夫 : drums, percussion, chorus
矢野顕子 : piano, chorus
浜口茂外也 : percussion
佐藤博 : piano, clavinet
岡田徹 : percussion, accordion
谷口邦夫 : steel guitar
岡崎弘 : alto sax
村岡建 : tenor sax
砂原稜三 : bass sax
山下達郎、大瀧詠一、小坂忠、大貫妙子、久保田麻琴、中根康旨、市橋一宏 : chorus
川田琉球舞踊団