現代音楽の巨匠スティーヴ・ライヒの出世作にして代表作の「18人の音楽家のための音楽」です。初演は1976年のことで、この曲がECMレーベルから発売されたことでライヒの名前は現代音楽の枠を超えて、広く世間に知られることになりました。

 名曲だけに何度も録音されています。本作品は1996年10月にニューヨークのヒット・ファクトリーにて録音されたもので、ノンサッチ・レーベルから発表されたものです。当初は1997年に発表された10枚組の「スティーヴ・ライヒ・ワークス1965-1995」の一枚でした。

 しかし、さすがに人気の高い曲の演奏だけに、しばらくすると単体作品としても発売されるようになりました。さらに2025年には27枚組の「スティーヴ・ライヒ・コレクション」の一枚としても収録されました。インパクトという点ではこちらにはECM盤が欲しかったところでしょうね。

 とはいえ演奏はさすがに充実しています。「ライヒ自身が理想的なメンバーを集め、当時最高のクオリティで実現させたレコーディング」と称されるだけのことはあります。演奏しているのはもちろんスティーヴ・ライヒ・アンド・ミュージシャンです。

 ECM盤と比べると18人の音楽家のうちライヒ自身を含む6人が重複しています。このメンバーは何度もこの曲をライヴで演奏してきており、初演後まもなく録音されたECM盤とは、その点が大きく異なります。あちらは初心の、こちらは歌いこまれた演歌のような魅力です。

 プロデュースにあたったジュディス・シャーマンによれば、1時間近い曲なので当初はいくつかのパートに分けて演奏したものを繋ぎ合わせる計画でしたが、パーカッションのジム・プライスから何度も演奏してきているのだから、通しで演奏させろと言われてしまいました。

 指摘を受けて、アンサンブルは通しで2度演奏し、その演奏をミックスして本作品が仕上がったのだそうです。この2回の演奏はテンポが全く同じで容易に組み合わせることができたといいます。熟練の技が生きたということができるでしょう。

 この曲の演奏には指揮者がいません。このため、18人もの演奏者同士が何らかのコミュニケーションをとる必要があります。さらに18人のうち何人かは楽器を持ち替えることになっています。案の定、座席配置は大変だったということです。そりゃそうですね。

 また、この曲はピアノとパーカッションによるパルスと、人の声と吹奏楽器によるパルスが重なってできており、後者は大きく息を吸ってそれが続くまで持続するとされているため、演奏者によってリズムが左右されます。そのため本作品はECM盤より11分も長くなっています。

 さらに再解釈されたところもあるそうで、それが聴き分けられる人ならば両者を聴き比べてみるのも楽しいことでしょう。いずれにせよ20年の時を隔てて、同じ系統のミュージシャンたちが再録音しているのですから、感慨深いです。何とはなしに懐かしい。

 私にとっても、現代音楽への入口となった作品なだけに思い入れは強く、再録音バージョンにこの楽曲の素晴らしさへの思いを新たにしました。カラフルなジャケットはECM盤と趣向を異にしますが、この違いが演奏の色合いにも現れているようで、なかなか洒落ています。

Music for 18 Musicians / Steve Reich (1998 Nonesuch)



Tracks:
01. Pulses
02. Section I
03. Section II
04. Section III
05. Section IV
06. Section V
07. Section VI
08. Section VII
09. Section VIII
10. Section IX
11. Section X
12. Section XI
13. Pluses

Personnel:
Rebecca Armstrong, Marion Beckenstein, Cheryl Bensman-Rowe : voices
Jay Clayton : voice, piano
Russell Hartenberger, Bob Becker, Tim Ferchen : marimbas, xylophones
James Preiss : vibraphone, piano
Garry Kvistad : marimba, xylophone, piano
Steve Reich : marimba, piano
Thad Wheeler : marimba, maracas
Nurit Tilles, Edmund Niemann : pianos
Philip Bush : piano, maracas
Elizabeth Lim : violin
Jeanne LeBlanc : cello
Leslie Scott, Evan Ziporyn : clarinets, bass clarinets