アレハンドロ・フラノフはアルゼンチン音響派の最重要人物の一人とされるアーティストです。しばしば「音の妖精」と呼ばれるフラノフですが、一般に想像するところの妖精とは少しばかり風貌が異なっています。ふくよかで髭をたたえた柔和な人物のようです。

 本作品はフラノフの数多い作品の中でも最高傑作の呼び声が高い4枚目のアルバム「オプシグノ」です。発表は2004年で、フラノフは前年にフアナ・モリーナの来日公演に帯同しており、その縁もあってか、ジャケットには日本語でタイトルとアーティスト名が書かれています。

 1972年生まれのフラノフは幼少の頃からクラシック音楽家に師事していますが、7歳上の兄の縁で早々にプロとしての音楽活動を始めた頃にはすでにさまざまな楽器を演奏していたようです。その後、さまざまな活動を経て1997年にはソロ・アルバムを発表しました。

 それ以降も賑やかな経歴をもっていますが、中でも日本びいきとしても知られるアルゼンチンのシンガーソングライター、フアナ・モリーナとの共演がやはり目を惹きます。とにかく日本からは遠いアルゼンチンですが、親日家がたくさんいるのは大変結構なことです。

 フラノフはマルチ楽器奏者として名高く、本作品でも多彩な楽器を操っています。本作品には各楽曲でフラノフが何を演奏しているのかきちんとクレジットされているのですが、スペイン語だということもあって、これの解読が大変です。分からないままの楽器も多数あります。

 ピアノやギター、シンセサイザーなどのお馴染みの楽器に加えて、シタールやアコーディオン、ウドゥなどなど。この辺りまでは分かりますけれども、パーカッション系は実に多彩で、レインスティックやカウベル、マリンバあたりまでしかよく分かりません。

 さらにフラノフはボーカルも披露しているのですが、これがホーミーだったりしますし、そういえばパーカッションには中国系の楽器も含まれています。打楽器に弦楽器、鍵盤楽器などを網羅し、さらにインドや中国、モンゴル、アフリカと地理的にも幅が広い。

 もちろんアルゼンチンの民族楽器も使われており、ここにエレクトロニクスが加わるのですから、もう怖いものなしでしょう。本作品ではアルゼンチンきっての打楽器奏者として知られるマルコス・カベサスが全面的にマリンバやヴィブラフォンで参加してさらに色味が加わります。

 ゲストは本作品のミキシングやマスタリングに係わったプロデューサーのエミリアーノ・ロドリゲスのギターと、南米で最も影響力のあるロック・ミュージシャンといわれたルイス・アルベルト・スピネッタのボーカルですが、それぞれ2曲及び1曲と参加は限られています。

 アルバムは基本的にはインストゥルメンタルで、音響派といわれるだけあって、各楽器の多彩な音色がくっきりと提示されていて、心の底から気持ちの良いサウンドに満ちています。アンビエントとして空間を編むというよりも、楽器の音色そのものを慈しむようなサウンドです。

 楽器固有のリズムもあるでしょうし、そもそもの性格もあるのでしょう、時にオリエンタル、時に中南米とさまざまな空気が流れています。楽器に歌わせるという音響派の真骨頂がここにある気がします。攻撃的なところは微塵もなく、心穏やかに聴ける音楽です。

Opsigno / Alejandro Franov (2004 Ayodhya)



Tracks:
01. Tren 蒸気機関車
02. Anubis
03. La Puerta De Los Sueños 夢の扉
04. Isis
05. Cigarras 蝉
06. Ayodhya 栗鼠
07. Opsigno
08. Shiva
09. Mbira
10. Navideña
11. Aguas Claras 清流
12. Cupido

Personnel:
Alejandro Franov : rainstick, gong, cowbell, pratillos chinos, whistle, synthesizer, piano, voice, udu, belltree, canto de armonicos, semillas, sitar, marimba, efx, accoustic guitar, accordion, bass, caja chayera, caxixi, cascabeles, campana, percussion, tambor chino, gongs frotados

Marcos Cabezaz : marimba, vibraphone, tabla
Emiliano Rodriguez : electric guitar
Luis Alberto Spinetta : vocal