バナナ王子ケヴィン・エアーズのアイランド移籍第二弾「スウィート・デシーヴァー」です。今回のジャケットに写るエアーズはまるでゲイのお姉さんのようです。アイランドは当時、エアーズを可愛らしいロックスターとして売り出そうとしていたそうですが、これは逆効果でしょう。
このイラストはジャケット・アートで有名なトニー・ライトによるものです。ライトの代表作としてはスティーヴ・ウィンウッドの「アーク・オブ・ア・ダイヴァー」やボブ・ディランの「セイヴド」などが挙げられます。不気味な絵ではありますが、ちゃんとした人だということは分かります。
前作はルパート・ハインのプロデュースによる作品でしたが、今回はその後長い付き合いとなるオリー・ハルソールとエアーズの共同プロデュースとなりました。ハルソールはパトゥやボクサーなどのメンバーとしても知られるギタリストで、前作から参加しています。
プロデューサーの違いは大きいです。何が違うと言って、ハインとハルソールではエアーズとの距離が違います。多くのゲストが参加していた前作に対し、今回はエアーズとハルソール、そして747にいたフレディー・スミスの三人をコアとするバンド的な雰囲気です。
もっとも今回は超大物スターのエルトン・ジョンが3曲に参加して、エルトン印のピアノを弾いていますから侮れない。曲にとても映える素敵なピアノです。さすがエルトン。これはエルトンのマネージャーだったジョン・リードがエアーズも手掛けることになった縁によるものです。
映画「ロケットマン」でぼろくそに描かれていたあのリードです。リードはエアーズを美少年キャラで売り出そうとしており、朝早い子ども向けテレビ番組にエアーズを出演させたりしたそうです。何にせよリードによる被害がそれくらいで済んでよかったです。
本作品はエアーズ作品の中でもかなりメインストリーム寄りのアルバムになっています。プロモーション戦略もあいまって、評論家受けはあまり良くありませんでした。エアーズにはショックだったようですが、アヴァンギャルドを期待する評論家と相性が合うはずありません。
しかし、本作品から本格的に始まるハルソールとの共同作業による作品は妙な先入観さえなければとても素晴らしいものです。ビートルズのパロディー・バンドだったラトルズにもかかわっていたハルソールの少しねじれたポップ感覚はエアーズとの相性が抜群です。
本作品では、エアーズが心を許している様子がありありと見てとれ、肩の力が抜けた、とてもリラックスしたサウンドがとにかく素晴らしいです。そして、録音がいい。このサウンドの響きは1975年とは思えない、とても生々しくて素敵なものです。
ストレートなロックから、トロピカルな曲、アコースティックなトラッド調のバラード、ロマンチックな楽曲まで、曲調はさまざまですけれども、魅惑の低音ボーカルはリラックスした調子で一貫しています。ブラスやエルトンのピアノの使い方も本当に素晴らしい。
アヴァンギャルドなサウンドを期待すると肩透かしを食らうのでしょうけれども、究極の自由人ケヴィン・エアーズの作品としては、この上ないものです。とてもポップな作品ですけれども、なかなかチャート・アクションに結びつかないところが残念です。
Sweet Deceiver / Kevin Ayers (1975 Island)
*2014年7月12日の記事を書き直しました。
Tracks:
01. Observations
02. Guru Banana
03. City Waltz
04. Toujours La Voyage
05. Sweet Deceiver
06. Diminished But Not Finished
07. Circular Letter
08. Once Upon An Ocean
09. Farewell Again (Another Dawn)
(bonus)
10. After The Show
11. Thank You Very Much
Personnel:
Kevin Ayers : vocals, bass, guitar, mandolin
***
Freddie Smith : drums
Ollie Halsall : guitar, bass, mandolin, piano, vibes, chorus
John Altman : clarinet
Fuzzy Samuels : bass
Elton John : piano
Jacob Magnusson : organ, accordion, piano, clavinet, chorus
Bias Boshell : Piano
Chili Charles : drums
Muscle Shoals Horns : brass
The Manor choir : chorus
このイラストはジャケット・アートで有名なトニー・ライトによるものです。ライトの代表作としてはスティーヴ・ウィンウッドの「アーク・オブ・ア・ダイヴァー」やボブ・ディランの「セイヴド」などが挙げられます。不気味な絵ではありますが、ちゃんとした人だということは分かります。
前作はルパート・ハインのプロデュースによる作品でしたが、今回はその後長い付き合いとなるオリー・ハルソールとエアーズの共同プロデュースとなりました。ハルソールはパトゥやボクサーなどのメンバーとしても知られるギタリストで、前作から参加しています。
プロデューサーの違いは大きいです。何が違うと言って、ハインとハルソールではエアーズとの距離が違います。多くのゲストが参加していた前作に対し、今回はエアーズとハルソール、そして747にいたフレディー・スミスの三人をコアとするバンド的な雰囲気です。
もっとも今回は超大物スターのエルトン・ジョンが3曲に参加して、エルトン印のピアノを弾いていますから侮れない。曲にとても映える素敵なピアノです。さすがエルトン。これはエルトンのマネージャーだったジョン・リードがエアーズも手掛けることになった縁によるものです。
映画「ロケットマン」でぼろくそに描かれていたあのリードです。リードはエアーズを美少年キャラで売り出そうとしており、朝早い子ども向けテレビ番組にエアーズを出演させたりしたそうです。何にせよリードによる被害がそれくらいで済んでよかったです。
本作品はエアーズ作品の中でもかなりメインストリーム寄りのアルバムになっています。プロモーション戦略もあいまって、評論家受けはあまり良くありませんでした。エアーズにはショックだったようですが、アヴァンギャルドを期待する評論家と相性が合うはずありません。
しかし、本作品から本格的に始まるハルソールとの共同作業による作品は妙な先入観さえなければとても素晴らしいものです。ビートルズのパロディー・バンドだったラトルズにもかかわっていたハルソールの少しねじれたポップ感覚はエアーズとの相性が抜群です。
本作品では、エアーズが心を許している様子がありありと見てとれ、肩の力が抜けた、とてもリラックスしたサウンドがとにかく素晴らしいです。そして、録音がいい。このサウンドの響きは1975年とは思えない、とても生々しくて素敵なものです。
ストレートなロックから、トロピカルな曲、アコースティックなトラッド調のバラード、ロマンチックな楽曲まで、曲調はさまざまですけれども、魅惑の低音ボーカルはリラックスした調子で一貫しています。ブラスやエルトンのピアノの使い方も本当に素晴らしい。
アヴァンギャルドなサウンドを期待すると肩透かしを食らうのでしょうけれども、究極の自由人ケヴィン・エアーズの作品としては、この上ないものです。とてもポップな作品ですけれども、なかなかチャート・アクションに結びつかないところが残念です。
Sweet Deceiver / Kevin Ayers (1975 Island)
*2014年7月12日の記事を書き直しました。
Tracks:
01. Observations
02. Guru Banana
03. City Waltz
04. Toujours La Voyage
05. Sweet Deceiver
06. Diminished But Not Finished
07. Circular Letter
08. Once Upon An Ocean
09. Farewell Again (Another Dawn)
(bonus)
10. After The Show
11. Thank You Very Much
Personnel:
Kevin Ayers : vocals, bass, guitar, mandolin
***
Freddie Smith : drums
Ollie Halsall : guitar, bass, mandolin, piano, vibes, chorus
John Altman : clarinet
Fuzzy Samuels : bass
Elton John : piano
Jacob Magnusson : organ, accordion, piano, clavinet, chorus
Bias Boshell : Piano
Chili Charles : drums
Muscle Shoals Horns : brass
The Manor choir : chorus