フィル・マンザネラによるソロ・アルバムとしては5枚目にあたる「サザン・クロス」です。前作は1982年の「プリミティブ・ギター」でしたから、実に8年ぶりのソロ・アルバムです。とはいえ、この間、いろいろな形で作品が届けられていましたから、久しぶりとは思えませんでした。

 まず、ロキシー仲間のアンディ・マッケイとともに新たなボーカリストを迎えたエクスプローラーズで2枚アルバムを作りました。解散後もマッケイとのデュオ名義で2枚のアルバムがありましたし、ジョン・ウェットンとのコラボ・アルバムもありました。

 さらには謎のノウォモワなるバンドでも1枚アルバムが出ています。いろいろな活動をしていたものです。あまり商業的には目立ちませんけれども、旺盛な制作意欲を保っていたことは喜ばしい限りでした。エクスプローラーズなんかなかなか良かったですし。

 本作品はマンザネラが所有しているギャラリー・スタジオにて制作されました。このスタジオはかなり設備が整っていたようで、他のアーティストにも貸し出されています。プロデュースにはマンザネラ自身と、10ccの作品などでエンジニアをしていたキム・ベッシーが当たりました。

 もう8年前なのであまり意味はありませんけれども、前作はオール・インストゥルメンタルのアルバムでした。しかし、本作品はほとんどの曲でしっかりとボーカルが入っており、マンザネラ作品としては「Kスコープ」にテイストが近くなりました。

 本作品でのコラボレーターとして重要な役割を果たしているのは元スプリット・エンズ、元クラウディッド・ハウスのティム・フィンです。マンザネラはスプリット・エンズのデビュー・アルバムをプロデュースしており、二人の仲はそれ以来続いています。

 フィンは多くの曲で共作者としてクレジットされている他に、3曲でリード・ボーカルを務めています。ボーカリストは他にフィーチャリング・アーティストとして記載されているゲーリー・ダイソン、そしてイントロデューシングとされるアナ・マリア・ヴェレスが起用されています。

 ダイソンもヴェレスも他にさほど目立った活動があるわけではありませんけれども、なかなかの実力派です。ダイソンは熱のこもったポップ・シンガーですし、ヴェレスはラテンの出自を活かしてキューバの名曲「グァンタナメラ」を見事に歌っています。

 演奏しているミュージシャンは、ブラジル生まれのボスコ・デ・オリヴェイラや、コロンビア生まれで英国で活躍するチューチョ・メルチャンなど、出自もさまざまであまり知らない人ばかりですが、メル・コリンズやジョン・ウェットンなんていう名前もちらりと出てくるので要注意です。

 本作品ではマンザネラのラテン・オリジン色が次第に濃くなってきました。とりわけリズムの色気が凄いです。マンザネラのギターもラテン色が漂うのですが、ティム・フィンはラテンとは無縁のようで、そのバランスが絶妙です。いい塩梅のポップ・アルバムです。

 ボーナス・トラックには本作からの楽曲をキューバのハバナで演奏したライヴ音源が収録されました。よりラテン色が濃くなっていて素晴らしいです。そろそろソロ作品を作って、こうしたライヴをやろうと思い立ったマンザネラの気持ちが分かる気がします。

Southern Cross / Phil Manzanera (1990 Expression)



Tracks:
01. A Million Reasons Why
02. Tambor
03. The Great Leveller
04. Astrud
05. Southern Cross
06. Blood Brother
07. Guantanamera
08. The Rich And The Poor
09. Dance (Break This Trance)
10. Verde
11. Dr. Fidel
12. Venceremos
(bonus)
13. Southern Cross (live at the Karl Marx, Havana, Cuba)
14. Astrud (live at the Karl Marx, Havana, Cuba)

Personnel:
Phil Manzanera : guitar, cello, bass, keyboards, tiple, voice, drum programming
***
Gary Dyson : vocal
Ana Maria Velez : vocal, guitar
Tim Finn : vocal
Chucho Merchan, Livingstone Brown, Lisandro Zapata : bass
Sandy Loewenthal : piano, keyboards
Mikey Sturges : drums
Keith Bessey : drum programming
Bosco De Oliveira : percussion, rain maker
Mauricio Abello : congas, cowbell
Phil Todd, Chris Davis, Mel Collins : sax
Guy Barker, Dave Defreis : trumpet
Suzie Webb, Val McKenna, Sally Ann Triplett, John Wetton, Zoe Nicholas, Billy Nicholls, Rebecca De Ruva : chorus