前作の大成功で大いに気をよくしたムーディー・ブルースのサード・アルバム「失われたコードを求めて」です。当初の邦題は、アルバムからのシングル・カット曲の題名をとって「青空に祈りを」とされていました。ただそれだとコンセプト・アルバム感が出ませんね。

 そうです、ムーディーズは前作の顰に倣って、本作品も堂々たるコンセプト・アルバムに仕上げたのです。ただし、今回はオーケストラはなし、すべての楽器を自分たちで演奏する自前主義を貫きました。成功の秘訣はオーケストラではないぞ、という矜持を感じます。

 前作からメンバーとなったジャスティン・ヘイワードとジョン・ロッジの二人は、曲も書けばリード・ボーカルもこなす有能さで、バンドのフロントマン二人が抜けた穴をしっかりと埋めておつりがくる大活躍ぶりでしたが、ここではもはやバンドを引っ張る存在となっています。

 本作品のコンセプトは、一言でいえば探し物です。洋の東西を問わず、昔から物語の主人公は何かを探しているものです。聖杯であったり、青い鳥であったり、真実であったり。そうした物語の祖型に沿った冒険譚がこの作品では展開されています。

 そうして世はサイケデリック時代です。トリップといえばインナー・トリップです。探すものは内なる意識の底の底です。本作品には邦題を「ティモシー・リアリー」とする曲があります。サイケデリックのスターを歌った曲です。本作品ももろにサイケデリックなのです。

 実際にメンバーはリアリーに会いに行ったようです。チベットの「死者の書」やインドの「バガヴァット・ギーター」などで意気投合したそうですから、絵に描いたようなサイケデリックっぷり。本作品の締めの一曲がインドの神の音「オーム」ですから何をかいわんやです。

 本作品は前作同様にトニー・クラークがプロデュースを担当しています。また、ジャケットにはこの後の数作品も担当する若い画家フィル・トラヴァースが登場します。トラヴァースは音楽を聴きこんでインスピレーションを得てこの絵を描きました。役者が揃いましたね。

 コンセプトはともかく、本作品は大変美しいサウンドで埋め尽くされています。前作ではオーケストラによる標題音楽が親しみやすさを演出していました。本作品ではオーケストラ不在にもかかわらず、全体の基調はネオ・クラシカルで、とても親しみやすいサウンドが続きます。

 プログレッシブ・ロックと聞くと、実験的でかつ攻撃的なサウンドもありますけれども、ムーディーズの場合はとても優しい。サイケデリック風味でピンク・フロイド的なサウンドもあるものの、ピンク・フロイドにある禍々しさがムーディーズにはありません。

 フルートやメロトロン、さらにはシタールやタブラなど、メンバーによれば三十数種類の楽器を使ったという挑戦的な姿勢はありながら、サウンドはファミリー向けのミュージカルを見ているような気持ちの良さです。そこがムーディーズの真骨頂ではないでしょうか。

 本作品は全英チャートでは5位、全米チャートでも23位とまだ新人ともいえるバンドとしては大ヒットといえる成績です。オーケストラから独立したムーディー・ブルースとしては、この成功は大きな自信となったことでしょう。もう進む道は決まりました。快進撃が始まります。

In Search Of The Lost Chord / The Moody Blues (1968 Deram)



Tracks:
01. Departure 出発
02. Ride My See-Saw
03. Dr. Livingstone, I Presume
04. House Of Four Doors 4枚の扉の家(パート1)
05. Legend Of A Mind ティモシー・リアリー
06. House Of Four Doors (Part 2) 4枚の扉の家(パート2)
07. Voices In The Sky 青空に祈りを
08. The Best Way To Travel より良き旅路
09. Visions Of Paradise 幻のパラダイス
10. The Actor
11. The Word
12. Om

Personnel:
Justin Hayward : vocal, guitar, sitar, tabla, piano, mellotron, bass, harpsichord, percussion
John Lodge : bass, cello, tambourine, snare drum, guitar, vocal
Mike Pinder : mellotron, piano, harpsichord, cello, guitar, bass, auto-harp, vocal
Ray Thomas : flute, soprano sax, vocal
Graeme Edge : drums, percussion, tabla, piano, spoken word