ボズ・スキャッグスの人気をブレイクさせた「シルク・ディグリーズ」に続くアルバム「ダウン・トゥー・ゼン・レフト」です。大ヒットの後だけに周囲の期待も高まっており、これまでにない緊張の中での制作だっただろうと思います。しかし、ボズはいつも通りの姿勢を貫きました。

 これまで続けて同じ形でアルバムを作ることをしてこなかったボズです。本作品でも前作の続編を作るのではなく、ここでは新たにマイケル・オマーティアンを迎え入れて、新しい形を模索しました。これまでのボズの試行錯誤も売れるためというわけではなかったんですね。

 オマーティアンは本作品収録の全10曲の半数にあたる5曲をボズと共作しているほか、キーボード、シンセサイザーなどを演奏し、さらにホーンやストリングスのアレンジメントを担当しています。そうクレジットされているわけではありませんが、ほとんどプロデューサーですね。

 オマーティアンといえばクインシー・ジョーンズと共に「ウィー・アー・ザ・ワールド」を共同プロデュースした有名なプロデューサーです。1979年に発表されたクリストファー・クロスのグラミー賞を受賞した「南から来た男」をプロデュースしたことで大いに名をあげました。

 したがって、本作品の頃はまだプロデューサーとしては駆け出しで、むしろスタジオ・ミュージシャンとしての活動が盛んでした。また自身が一員だったディスコ・バンド、リズム・ヘリテイジでは全米1位を獲得してもいます。ディスコ、ファンク筋で活躍していたことが特筆されます。

 そんなオマーティアンに白羽の矢を立てたボズは見る目があったと言わざるを得ません。本作品では共にブルー・アイド・ソウル仲間であることを最大限に生かして、二人して前作に比べてソウル色が際だつ作品を作り上げました。「スロウ・ダンサー」とも少しニュアンスが違う。

 演奏を担っているのはオマーティアンとリズム・ヘリテイジ仲間のベーシスト、スコット・エドワーズ、リズム・ヘリテイジの作品に参加していたレイ・パーカー・ジュニア、ジェイ・グレイドン、ヴィクトー・フェルドマンなどオマーティアン人脈のミュージシャンが多いです。

 一方、TOTO組からはジェフ・ポーカロがドラムで全面的に参加している他、まだ十代だったスティーヴ・ルカサーが華々しく活躍しています。ルカサーはこの作品が出世作となりました。一方、デヴィッド・ハンゲイトは1曲のみの参加、デヴィッド・ペイチは不参加です。

 こうしてオマーティアンと二人三脚で作り上げられたアルバムは、見事なブルー・アイド・ソウルぶりを見せています。ボズがファルセットのボーカルを多用していることもその一つです。見事にお洒落なサウンドです。この時期のディスコで人気があったと記憶しています。

 しかし、本作品は前作ほどはヒットしませんでした。それでも全米11位ですが、前作がウルトラ・ヒットだっただけに残念でした。シングル・カットされた「ハード・タイムズ」と「ハリウッド」も50位前後をうろうろする程度のヒットに過ぎません。ソウル色が強すぎたのかもしれません。

 この頃からボズはコンサートでタキシードを着るようになりますが、映像を見ると目が怖い。セルフ・イメージとは異なっていたのかもしれません。大成功を収めたワールド・ツアーの後にこうしてまた毛色の違う傑作アルバムを出してきたボズの心中やいかに。

Down Two Then Left / Boz Scaggs (1977 Columbia)



Tracks:
01. Still Falling For You
02. Hard Times
03. A Clue
04. Whatcha Gonna Tell Your Man
05. We're Waiting
06. Hollywood
07. Then She Walked Away
08. Gimme The Goods
09. 1993
10. Tomorrow Never Came

Personnel:
Boz Scaggs : vocal, guitar
***
Michael Omartian : keyboards, synthesizer, accordion, marimba, horn & string arrangements
Ray Parker Jr., Steve Lukather, Jay Graydon : guitar
David Hungate, Scott Edwards : bass
Jai Winding : piano
Jeff Porcaro : drums, syndrum, timbales
Bobbye Hall : bongos, congas
Victor Feldman : claves, vibraphone
Alan Estes : congas
Don Menza, Ernie Watt : sax
Fred Selden : sax, flute
Dana Hughes : trombone
Chuck Findley : trumpet, flugelhorn
Steve Madaio : trumpet
Barbara Korn, David Duke : Frenh horn
Sydney Sharp : concertmaster
Carolyn Willis, Jim Gilstrap, John lehman, Zedric Turnbough, Venetta Fields, Roy Galloway, Phyllis St. James, Terry Evan, Bobby King, Eldridge King, Julia Tillman Waters, Myrna Matthews, Stan Farber, Jim Haas : chorus