パンク/ニュー・ウェイブ時代に米国で活躍したバンド、クロームによる2023年作品です。クロームが最も輝いていたのは1977年の「エイリアン・サウンドトラックス」から5枚目となる1982年の「サード・フロム・ザ・サン」までです。私もその時期のクロームは大好きでした。

 しかし、その後もクロームは精力的な活動を行っており、アルバムも20枚以上発表していました。全然知りませんでした。本作品は「ブルー・エクスポージャー」と題されており、初期の名作「レッド・エクスポージャー」を意識したことが明らかなため、目に飛び込んできたものです。

 これまでのクロームの歩みは、その中心人物ダモン・エッジとヘリオス・クリード二人の帰趨によって三つの時期に分けられます。まずは最初のエッジ/クリード期、エッジ一人になったエッジ期、そして現在のクリード一人になったクリード期です。

 最後のクリード期は1995年にエッジが亡くなったことから、クリードがクロームを継承することになったことで始まりました。ここでも多数のアルバムが発表されており、本作品はクリード期の9枚目のアルバムとなります。クリードは70歳、何と精力的なことでしょう。

 「ブルー・エクスポージャー」でのクロームはクリードとフェルナンド・ペルドモのデュオとなっています。クリードがギターとボーカル、シンセを担い、それ以外のベースやドラム、キーボードなどをペルドモが担当しています。ほぼすべてのサウンドを二人だけで作り上げています。

 ペルドモという人は実に多彩な経歴の持ち主です。生まれは1980年ですからクリードに比べるとかなり若いのですが、ギタリストとして映画「エコー・イン・ザ・キャニヨン」の中で、ブライアン・ウィルソンやノラ・ジョーンズ、ベックなど大物のバックを務めたことで名を上げました。

 さらにエリック・クラプトンやニール・ヤングなどとも共演している他、自身でキング・クリムゾンやトッド・ラングレンの全曲カバー・アルバムを発表するなどしています。本作品の発売元であるクレオパトラ・レコードのスタッフ・プロデューサーでもあります。

 前作まではベーシストやドラマーなどもいましたので、このデュオは本作品からの模様です。ここで意識されている人気作「レッド・エクスポージャー」はエッジとクリードのデュオで制作されていますから、形態としてはその時期に戻ったともいえるわけです。

 ここで聴かれるサウンドは内容的にも1980年発表の「レッド・エクスポージャー」の時代に戻ったかのようです。クリードは1970年代のロックサウンドを意識したサウンドを生み出すジェット・フェイザーを使用していますし、ペルドモも当時のスタイロフォンを使っています。

 ペルドモにしてみれば一連のカバー・アルバムと同じような気分で作ったのではないでしょうか。全部新曲ではありますが、当時の曲「クロモゾーム・ダメージ」の続編も収録されていますし。ビート感覚がまるで当時のまま、ここまで典型的なエイト・ビートは懐かしいです。

 インダストリアル・アシッドパンク・ユニットと称されるクロームの作品が墓場から甦ったようで、新作のはずなのに何とも懐かしい。同時代的では全くなく、ハウス/テクノ以前のビート感覚にいがいがしたサウンドが映える同窓会的なアルバムです。

Blue Exposure / Chrome (2023 Cleopatra)



Tracks:
01. Chromosome Damage II
02. Enforcer
03. The City Of Dead Stars
04. Stress City
05. Repo Man
06. Bathing In Life
07. Blue Exposure
08. Careful How You Pour The Wine
09. Drifting
10. The Journey
11. Waiting For The Sun, Waiting For The Moon
12. Way Before

Personnel:
Helios Creed : vocal, guitar, synthesizer, jetphaser
Fernando Perdomo : bass, drums, synthesizer, mellotron, stylophne, chorus, percussion
***
Mel Collins : sax