ザ・フォールは私の音楽鑑賞人生において、確実にトップ10に入るであろう大好きなバンドです。しかし、日本には100人くらいしかファンがいないと思われます。それが証拠に日本語版ウィキペディアの貧弱なことったらありません。

 ザ・フォールの活動期間は極めて長いです。その長いキャリアの中で頻繁にメンバー・チェンジを繰り返しますが、ボーカルのマーク・E・スミス、略してMESだけは決して変わりません。MESによれば、「自分とあんたのおばあちゃんがいればそれがザ・フォール」です。

 そういうわけで、このバンドを語るということは、MESを語るということです。彼は1957年ひな祭りにイギリスのマンチェスター郊外に生まれました。お父さんは配管工ということで労働者階級の出身です。特に音楽に囲まれて育ったということもなかったようです。

 当時のマンチェスターはどうしようもなく退屈な町でしたが、1976年のセックス・ピストルズのフリー・トレード・ホールでのライブが、マンチェスターを変えました。観客の中に後にイギリスのロック界を牽引するスターが沢山いあわせました。MESもその一人です。

 そんなマンチェスターで、ザ・フォールは1976年に結成されました。結成当初は同棲相手を含む四人組でした。当初はMESはギターを担当していましたが、全くギターが弾けなかったという理由でボーカルに回っています。バンド名はアルベール・カミュの「転落」からです。

 本当だとするとかなり民主的なバンドだったということですね。最初は。彼らはライブを行うようになりますが、バンド・メンバーは「あのどうしようもないボーカリストを変えれば、君たちはスターになれる」なんて囁かれていたそうで、バンドは最初から波乱万丈。

 結局、このデビュー盤制作時には、オリジナル・メンバーはマークとマーティン・ブラマーの二人だけです。マークのワンマン・バンドへと進んでいくわけです。他のメンバーはドラムにカール・バーンズ、ベースにマーク・ライリー、キーボードにイボンヌ・パウレット。5人組です。

 何だかバイオになってきたので、作品に戻りましょう。彼らの音楽は、かっこいいベース・ラインとギターに乗ってMESがお経のように歌う、そんな書いてしまえば単純な音楽です。昔も今も変わらない。このデビュー盤にして、いきなり完成された姿で立ち現れます。

 いきなり重いベースの繰り返しパターンで、カンやキャプテン・ビーフハートの影響を感じさせます。名曲「レベリィアス・ジュークボックス」ではかっこいいベース・ラインにキャッチーなメロディーで迫りますし、パンクな曲「インダストリアル・エステイト」他、聴きどころが多いです。

 シャラシャラしたギターのかっこ良さも耳を惹きます。タイトル曲は、ほぼ語りのみ。♪私はまだR&Rの夢を信じている♪などと、とてもMESらしくない語りがあるのもご愛嬌。プロデューサーは元カーブド・エアーで後にヘアカット100をプロデュースするボブ・サージェントです。

 彼らは5日間スタジオを予約していたのに、MESの病気で最初の3日をむなしく過ごし、わずか1日で録音、あと1日でミックスの離れ業を余儀なくされました。しかし、それが功を奏し、デビューにしてなかなかの傑作になりました。名刺代わりの一発。素晴らしいアルバムです。

Live At The Witch Trials / The Fall (1979 Step Forward)

*2012年6月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Frightened
02. Crap Rap 2 / Like To Blow
03. Rebellious Jukebox
04. No Xmas For John Quays
05. Mother-Sister!
06. Industrial Estate
07. Underground medicin
08. Two Steps Back
09. Live At The Witch Trials
10. Futures And Pasts
11. Music Scene
(bonus)
12. Bingo-Master's Break-Out!
13. Psycho Mafia
14. Repetition
15. It's The New Thing
16. Various Times
17. Dresden Dolls
18. Psycho Mafia
19. Industrial Estate
20. Stepping Out
21. Last Orders
(bonus disc)
BBC Sessions
01. Rebellious Jukebox
02. Mother-Sister!
03. Industrial Estate
04. Futures And Pasts
05. Put Away
06. Mess Of My
07. No Xmas For John Key
08. Like To Blow
Liverpool '78
09. Like To Blow
10. Stepping Out
11. Two Steps Back
12. Mess Of My
13. It's The New Thing
14. Various Times
15. Bingo-Master's Break-Out!
16. Frightened
17. Industrial Estate
18. Psycho Mafia
19. Music Scene
20. Mother-Sister!

Personnel:
Mark E Smith : vocal, guitar, tapes
Martin Bramah : guitar, chorus
Marc Riley : bass
Karl Burns : drums
Yvonne Pawlett : keyboards