今でこそ東南アジアやヨーロッパで日本のポピュラー・カルチャーの催し物が開催されるのは珍しくありませんが、1984年の段階でイタリアでそんな催しがあったというのは感動的です。クール・ジャパンという言葉はその頃にはまだありませんでした。

 ただ、なぜか台湾でなめ猫や学ランが流行っているとか、欧米で日本のストリート・ファッションが注目されているとか、キャプテン翼が人気らしいとか、今になって思い起こせばクール・ジャパンの萌芽が見られていましたが、大きな動きにはなっていませんでした。

 1984年8月24日から29日まで、ローマにあるローマ時代の屠殺場遺跡にて、「ジャパン・ジャパン」なるさまざまなジャンルの日本文化を紹介する催しが開催されました。ポピュラー音楽もその一つで、6日間にわたり6バンドが登場する大規模なものでした。

 名前を挙げると、メロン、EP-4、どくとる梅津バンド、フランク・チキンズ+ダモ鈴木、フリクション、清水靖晃です。必ずしも一般的には日本を代表する人たちというわけではありませんが、何とも先鋭的な人選で、主催者の目の確かさが窺えます。

 この時のフリクションは、2作目の「スキン・ディープ」を発表した後ですから、当然、バンドもスキン・ディープ・バンドです。ドラムとサックスのチコ・ヒゲはオリジナル・メンバーで、シュッツ・ハルナとボーイズ・ボーイズのギタリスト、茂木恵美子が新メンバーです。

 ほとんどが「スキン・ディープ」からの曲で、ファーストからは「クレイジー・ドリーム」だけが選曲されています。フリクションの場合、スタジオ作には必ずライブ作がついてきますから、この「ライヴ・イン・ローマ」は「スキン・ディープ」と二つで一つと考えられます。

 ただ、「スキン・ディープ」がほとんどレックのソロ・アルバムだったことを思い返しましょう。それに比べると、当然ですが、こちらはバンド・サウンドです。ドラムもちゃんとチコ・ヒゲが叩いています。そりゃそうです。ライブですから当たり前です。

 シュッツ・ハルナはトランペットとディレイ・マシーンを担当しているとクレジットされています。チコ・ヒゲはドラムの他にアルト・サックスを吹いています。そして、茂木恵美子はここでもほとんどカッティングに徹したゴリゴリしたギターを弾いています。

 リード楽器はそれらのどれでもなくレックのベースです。レックの雄弁なベースとボーカルが歌いまくります。時にバンドの演奏はまるでフリー・ジャズのようでもあり、東京ロッカーズ時代のフリクションからは遠くに来ました。スタジオに比べ、とても自由です。

 この作品は、ライブの翌年にプライヴェート盤としてリリースされましたが、これは未発表曲3曲を加えた完全盤としてリマスターの上発表された再発盤です。未発表曲も同じライブからの録音ですから、ほぼ完全盤といってよいのではないでしょうか。

 音は決してよいとはいえないのですが、この時期のフリクションの姿をうかがうことができる大変貴重なアルバムです。重いビートと自由奔放なジャズ的演奏が融合した作品は聴き応えがあります。さすがはフリクション。イタリア人も度肝を抜かれたことでしょう。

Live at Ex Mattatoio in Roma / Friction (1985 PASS)

*2015年8月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Intro
02. Ikigire (Out Of Breath)
03. Pick Up
04. New Baby's
05. New Sensation
06. Defence
07. Easy
08. Cushion
09. Crazy Dream

Personnel:
Reck : bass, vocal
Chiko Hige : drums, alto sax
茂木恵美子 : guitar
ScherZ Haruna : trumpet, delay