キャメルは1970年代から英国で活躍するプログレッシブ・ロック・バンドです。このデビュー・アルバムは1973年ですから、プログレの全盛期ともいえます。キャメルは五大プログレ・バンドの中には入りませんけれども、そこに続くバンドとして静かな人気を誇りました。

 キャメルはイングランドのサリー州ギルフォードにて結成されました。もとになったのはギタリストのアンディ・ラティマー、ドラムのアンディ・ウォード、ベースのダグ・ファーガソンによるトリオ、ブリューでした。このブリューに元ゼムのピーター・バーデンスが加わってキャメルです。

 キーボードを加えたいと考えたブリューがメンバー募集広告を出したところにバーデンスが手を挙げたそうです。バーデンスはヴァン・モリソンのゼムに短期間在籍した後、バンドを組んだり、ソロ作品を出したり種々模索していた時期で、無名バンドに手を挙げたのも頷けます。

 こういうビッグ・ネームが加わると話は早いです。キャメルは1971年12月には早くもキャメルの名のもとにウィシュボーン・アッシュをサポートするステージに立ちます。手ごたえは上々で、翌年1月からはツアーにでて、ライヴ・アクトとして人気を高めていきました。

 レコード契約も順調で、早くも1972年8月にはMCAとの契約にサインしています。本作品は契約早々に制作が始まり、翌年2月に発表されたセルフ・タイトルのデビュー作品です。邦題は「キャメル」、後に「キャメル・ファースト・アルバム」とされました。出世ですね。

 ジャケットはバンド名通り、ラクダが描かれました。台車がついて疾走するラクダは、3Dの質感がとても妖しいです。CGっぽいイメージで、なんともプログレッシブ・ロックらしいです。そもそもバンド名をラクダにする時点でそもそも何やら不穏な気がします。

 しかし、このバンド、キャメルのイメージは、水を飲まずに砂漠を旅する粘り強さなどではなく、そのつぶらな優しい瞳の方に近いです。もっとも、キャメルのキャリア自体は、ヒットには恵まれなくても、黙々とわが道を歩むという意味でのラクダにぴったりかもしれませんね。

 本作品はラクダの眼のように優しい作品です。楽曲はラティマーとバーデンスがそれぞれ持ち寄っており、いずれも新人バンドのデビュー作とは思えないしっかりした作りになっています。この辺りはキャリア十分なバーデンスの存在は大きかったことでしょう。

 このバンドはドラムのウォードを除く3人がボーカルをとっています。いずれもザ・ボーカリストという感じはありません。ピンク・フロイドもそうでした。そのとつとつとしたボーカルが弱点ではなく、サウンド作りを際立たせる結果になっているところが面白いです。

 本作品の主役はラティマーの哀愁に満ちたギターと、メロトロンやシンセサイザーを駆使するバーデンスのキーボードの掛け合いです。リズム隊もそれをしっかり支えることで、緊張感のあるアンサンブルが実現しています。そして流れてくる美しいメロディー。

 キャメルはプログレッシブ・ロック叙情派として知られます。美しいメロディーはどこかフォークの香りがして、テクニカルな演奏を柔らかいものにしています。こうした演奏を聴いているとほっとします。いかにもヒットしなさそうですけれども、長く愛される作品です。

Camel / Camel (1973 MCA)



Tracks:
01. Slow Yourself Down
02. Mystic Queen
03. Six Ate
04. Separation
05. Never Let Go
06. Curiosity
07. Arubaluba

Personnel:
Andrew Latimer : guitar, vocal
Peter Bardens : organ, Mellotron, piano, synthesizer, vocal
Doug Ferguson : bass, vocal
Andy Ward : drums, percussion