伝説のライヴと名の付くライヴは数多くありますけれども、この作品はその中でもかなり伝説度が高い作品です。ただし、同時代的にはさほど伝説扱いされていた訳ではなかったように記憶しています。レコード自体もそれほど入手困難というわけではありませんでした。

 本作品は1980年12月に自主製作で発表された10インチ盤「-ed ’79 Live」と同じ、1979年12月16日に京都の磔磔にて行われたライヴを録音した作品です。「と同じ」と書いたのは、オリジナル盤に使用されたテープとは異なるテープを使っているからです。

 オリジナルは自分たちが録音したカセット・テープを使っていましたが、何でもこの日の対バンのメンバーが録音していたカセット・テープが発見されたとのことです。後者の方が音質が良かったため、CD再発に際しては、そちらを使用したという経緯があります。

 オリジナル盤は10インチの制約もあって、CD完全盤に比べると曲が2曲少ない他、各曲がフェードアウトしていたそうです。オリジナル盤を持っていたわけではないので、あまり確たることは言えないのですが、音質は相当違うようです。

 この当時のライブハウスではステージの端にカセットレコーダーが並んでいることが多かったです。メンバーもそうして録音していたようですし、お客も勝手に録音していました。大らかな時代でした。これもそんな録音だろうと思われます。

 音質は改善したとは言え、カセット録音ですから、たかが知れています。ドラムやベースの低音ももちろん、高音も綺麗に録れているわけではないですし、全体にマシンで成形したように音の広がりがありません。特にレックのベースが残念ではあります。

 しかし、そうであればあるほど伝説度が高まります。この当時のフリクションは、レック本人の言葉を借りると、「うん、この時期の演奏はある種、奇跡的だと思う。それはね、メンバーの3人が3人ともお互いを、こいつでいい・・・・・っていう。」ことです。

 ツネマツ・マサトシを加えた3人組のフリクションは2年ほどしか活動の期間がありませんでしたが、その中でも最も充実していた時期のライブがこれです。音質の悪さを想像力で補えば、当時の恐ろしいまでに研ぎ澄まされたライヴが甦ります。

 メジャーから配給されたデビュー作には、本人たちもフラストレーションが残ったそうです。「それは、スタジオには客がいないでしょう。音をぶつける相手がいないわけだ」ということで、「どうもちがう」という気持ちをバランスさせるための発表でした。

 どこまでも誠実な人たちです。やはり、彼らはインディーズ界のパイオニアです。野茂英雄です。作品作りが目標ではなく、常にストイックに音楽を追求していく、その過程を記録したものが作品となる。そんな姿勢が素晴らしいです。インディーズかくあるべきとすら思います。

 スタジオ盤ではよく分からなかったフリクションの了見というものが、このライヴを聴くことで得心できます。この作品を聴いた後でスタジオ盤を聴くと、聴き方が変わります。どちらもフリクション。二つ合わせてフリクションです。この後もスタジオとライヴの両輪が続きます。
 
'79 Live / Friction (2005 PASS)

*2015年8月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Automatic-Fru
02. Pistol
03. Big-S
04. Kagayaki
05. A-Gas
06. Cool Fool
07. Cycle Dance
08. I Can Tell
09. Out

Personnel:
Reck : vocal, bass
Tsunematsu Masatoshi : guitar
Chiko Hige : drums