あっと驚くブラック・サバスの11作目のスタジオ・アルバム、その名も「悪魔の落とし子」です。前作から2年、何と本作品でボーカルをとっているのは、黄金期のディープ・パープルを支えたイアン・ギランです。当時は大いに物議を醸したメンバー交代でした。

 それにしてもヘヴィメタルとプログレは大物ミュージシャンによる離合集散が盛んです。他のジャンルに比べてその頻度が大きいのは、みんな演奏が上手だからだろうと思います。どこへいってもばりばりやれる。パンク/ニュー・ウェイブの連中にはできないことです。

 さて、今回のメンバー交代の経緯をめぐってはさまざまなエピソードが語られています。トニー・アイオミはデヴィッド・カヴァーディルとコージー・パウエルのホワイトスネイク組と話を進めていたとか、ロバート・プラントに白羽の矢を立てていたとか。

 ギランは当初消極的だったそうですが、彼らしく酒の席でこれを承諾しています。そして、当初は新たなバンドとしてスタートすることを想定していたそうですが、これはマネジメント・サイドに却下され、大御所ブラック・サバスの名前でアルバムが制作されました。

 なお、ロニー・ジェイムス・ディオが脱退した際には、ドラムのヴィニー・アピスも脱退しており、代わりに酒を飲まない約束でオリジナル・ドラマーのビル・ウォードが復帰しています。結局、オリジナル・サバスにイアン・ギランのボーカルという布陣が実現しました。

 このあたりの事情が大いに語られることはヘヴィメタル界隈の結束を高める効果があるように思います。ブラック・サバスとディープ・パープル、ついでにレインボーも含めると相関図が大変面白くなります。このサバスはライヴでは「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を歌いますし。

 とはいえ、そもそもギランがサバスに入ることについて当時は否定的な意見が多かったようで、発表当初は好意的なレビューはあまりありませんでした。これに最終ミックスに不満があったメンバーの否定的なコメントが加わると不幸なことになります。

 しかし、アルバムは全英4位、全米39位と派手なチャート・アクションを見せました。ブラック・サバスとディープ・パープルですから、ぶつぶつ言っていたファンも一応は買わざるを得なかったのでしょう。この後のツアーも大盛況だった模様です。そりゃ見てみたい。

 アルバムは大変面白いです。ディオとは異なる高音シャウトのギランがボーカルに入ったことでサウンドはかなり変化しています。ボーカル・スタイルというよりも、ディオの持つプログレ的な世界観と♪煙が湖の上に♪と直截なギランとの違いといった方がいいかもしれません。

 そしてかなりディープ・パープルに寄っています。B面最初の「デジタル・ビッチ」などはまるで「ハイウェイ・スター」のようです。アイオミもリッチー・ブラックモアばりの速弾きを見せています。しかし、「ゼロ・ザ・ヒーロー」やタイトル曲などは堂々たるサバス節です。

 邦題に悪魔をつけたのは慧眼です。ギランも少しオカルト寄りのスタンスをとっていますし、アイオミには他者が入ることでより原点に回帰しようとするベクトルが見られます。どっちに転んでもヘヴィメタルな人々の、そんな微妙なバランスが面白い素敵な作品だと思います。

Born Again / Black Sabbath (1983 Vertigo)



Tracks:
01. Trashed
02. Stonehenge
03. Disturbing The Priest 邪神
04. The Dark 暗黒
05. Zero The Hero
06. Digital Bitch
07. Born Again 悪魔の落とし子
08. Hot Line
09. Keep It Warm

Personnel:
Ian Gillan : vocal
Tony Iommi : guitar, flute
Geezer Butler : bass
Bill Ward : drums, percussion
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Geoff Nicholls : keyboards