♪冷静になるには若すぎるけど、夢を見るには歳をとりすぎた♪という「スレイヴ・トゥ・ラヴ」の一節が凄すぎます。ブライアン・フェリーの歌詞の中でも最高のフレーズの一つだと思います。しみじみとそんな思いに囚われることがありませんか?

 ロキシー・ミュージックの2度目の解散後初となるフェリーさんのソロ「ボーイズ&ガールズ」です。ソロですが、路線としては直接「アヴァロン」の延長線上にある作品です。フェリーのソロとしては初めて英国チャートを制し、米国でもゴールド・アルバムになりました。

 制作には随分時間をかけています。使ったスタジオは7つ、参加ミュージシャンは30人を数えます。各楽曲のミュージシャンが明らかになっていないのは、分からなくなるほど編集したからではないかと思います。スティーリー・ダンのような偏執的な仕事ぶりです。

 自身のソロとして、アルバム全体の隅から隅まで隈なく神経が行き届いています。行き過ぎると息苦しくなりますが、その直前で止まっているところがこのアルバムの凄いところです。もうぎりぎり一杯。あと一滴で零れてしまう、そんな風情が漂います。

 参加ミュージシャンには旧ロキシー勢は見当たりません。ソロでおなじみの面々に加えて、今回はダイアー・ストレイツのマーク・ノップラー、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモア、シックのナイル・ロジャースとオマー・ハキムなどの超有名ミュージシャンが参加しています。

 サウンドは見事に統一された感触をもっており、これ以上なく贅沢な味わいです。これまで以上にブラックなリズムとヨーロッパの哀愁が絶妙に調合されており、それをボブ・クリアマウンテンのミックスが極上サウンドに仕上げています。文句のつけようのない作品です。

 ファン・サイトにあるエピソードを多少紹介しますと、フェリーさんはこのアルバムが予定よりも仕上がりが遅れたために、「ドント・ユー?」を歌ってほしいというオファーを断りました。ご承知の通り、結局シンプル・マインズが歌って全米1位を獲得した曲です。

 それから、アルバム・タイトルは、アルバムで一番とっつきにくいと思われる曲の題名を持ってきて、注目してもらおうと思ったのだそうです。また、アルバムからの二作目のシングル「ドント・ストップ・ザ・ダンス」は日本でテレビCMに起用されました。

 何曲かは発売直後に行われたライブ・エイドで演奏されました。白昼に行われたステージではデヴィッド・ギルモアがギターを弾いており、いい感じではありました。ただ、さすがにあのステージにフェリーさんのこのアルバムからの楽曲は似合いませんでした。

 とにかく完成度の高い作品です。そして、フェリーさんのソロ・アルバムですけれども、もはやロキシー・ミュージックの作品と言われても分かりません。これまでなら画然と区別があったので、ロキシーは本当に解散したのだなと当時は感慨にふけったものでした。

 やんちゃなロキシー・ミュージックを率いてデビューしたブライアン・フェリーがゴージャスの極みに到達しました。同じように齢を重ねてきたファンとしては素直に感動するとともに、若さとの訣別に一抹の淋しさを感じることになりました。これもまた人生です。

Boys and Girls / Bryan Ferry (1985 EG)

*2013年4月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Sensation
02. Slave To Love
03. Don't Stop The Dance
04. A Waste Land
05. Windswept
06. The Chosen One
07. Valentine
08. Stone Woman
09. Boys And Girls

Personnel:
Bryan Ferry
***
Alfa Anderson, Jim Carin, Michelle Bobbs, Rhett Davies, Yanick Etienne, Colleen Fitz-Charles, Lisa Fitz-Charles, Simone Fitz-Charles, Guy Fletcher, David Gilmour, Omar Hakim, Virginia Hewes, Ednah Holt, Neil Hubbard, Neil Jason, Chester Kamen, Mark Knopler, Tony Levin, Jimmy Maelen, Martin McCarrick, Marcus Miller, Andy Newmark, Nile Rogers, David Sanborn, Keith Scott, Alan Spenner, Anne Stephenson, Fonzi Thornton, Ruby Turner