邦題は「ベールを脱いだ花嫁」とベタですが、原題はマルセル・デュシャンの代表作、「彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも」、通称「大ガラス」からの引用です。英国現代アートの巨匠リチャード・ハミルトンに師事していたブライアン・フェリーらしいタイトルです。

 フェリーさんの5枚目のソロ・アルバムは、フェリーさんをアイドル視してきた目から見ると、なかなかに恐ろしい作品です。運命の女ジェリー・ホールにあっさりふられてしまった心情が反映されている作品なのです。ホールはミック・ジャガーのもとに走ったのでした。

 振られ方もよくありませんでした。「ジェリーはぼくの婚約者だ」とフェリーさんの未練たらたらの発言が伝わってくると、一方のジェリーさんからは「ブライアンは国際電話で話していても料金を気にする人だった」と幻想を打ち砕くにたる発言が伝えられてきました。

 二人の間の出来事ですから真相は分かりませんが、こういう報道ぶりだったことが重要です。フェリーさんに憧れる田舎の青年はその心をどん底に突き落とされたのでした。ジェリーさんは後に自伝を書いて赤裸々に当時を語っているそうですが、怖くていまだに読めません。

 この作品は、その失恋によって生じた「からっぽの心象風景」を描いた作品だと評されていました。確か巻上公一氏によるアルバム評での言葉だと記憶しています。これまでのフェリーさんのソロ・アルバムとは異なる表情を見事にとらえた言葉だと思います。

 一方、音楽家としてのフェリーさんを眺めると、本作品にはまた違った意味合いが出てきます。この作品は前期ロキシーにはっきりと別れを告げ、再結成後のロキシーが完成させるスタイルへと移行する分水嶺に位置するアルバムだといえます。

 本作品では、プロデュースにも名を連ねているドラムのリック・マロッタとギターのワディー・ワクテルという米国西海岸の超有名ミュージシャンの活躍が目立ちます。他のメンバーはイギリス人ばかりですが、この二人の活躍がサウンドを大きく変えました。

 ここまでのロキシーやフェリーさんの魅力は、普通の尺度では完成度の低いサウンド展開にあったと思うのですが、このアルバムの音は見事に普通に完成度が高いです。艶のある素敵な西海岸的サウンドです。何だできるじゃん、とフェリーさんは思ったことでしょう。

 楽曲はオリジナルとカバーが半々。カバー曲は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、サム&デイヴ、アル・グリーン、OVライト、JJケイルと相変わらずの選曲です。想定外の曲はなくて、好きなアーティストの曲の中から今回も歌詞で選んだ模様です。

 オリジナル曲では「キャント・レット・ゴー」に注目です。この未練たらたらの名曲は再結成後のロキシーのステージでの定番になりました。このことも本作品が後期ロキシーに素直につながることを示しています。いよいよソロとバンドの区別が曖昧になってきたともいえます。

 本作品は商業的には今一つぱっとしませんでした。結果、そのことがロキシー再編につながるわけですが、その再結成後のロキシー・サウンドには、ここでフェリーさんが得たものが大きく反映されていくことになります。本作品は過渡期の力作なのでした。

The Bride Stripped Bare / Bryan Ferry (1978 EG)

*2013年3月10日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Sign Of The Times
02. Can't Let Go
03. Hold On (I'm Coming)
04. The Same Old Blues
05. When She Walks In The Room
06. Take Me To The River
07. What Goes On
08. Carrickfergus
09. That's How Strong My Love Is
10. This Island Earth

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, keyboards
***
Alan Spenner, Herbie Flowers, John Wetton : bass
Rick Marotta, Preston Heyman : drums
Ann Odell : piano, organ, strings
Steve Nye : piano
Neil Hubbard, Waddy Wachtel : guitar
Mel Collins : sax
Martin Drover : trumpet