ロキシー・ミュージックが一旦解散した後、初めて発表されたブライアン・フェリーのソロ・アルバム「レッツ・スティック・トゥゲザー」です。ただし、英国他で発売されたEP盤にシングルのB面曲などを加えて出来上がったという新作というには中途半端な作品です。

 ソロ作品では他人の曲をカバーすることが恒例であったフェリーさんですが、今回は純然たるカバー曲は11曲中6曲に抑えられており、残りの5曲はロキシー時代の楽曲のセルフ・カバーとなっています。ただし、既発も多く、新たに録音されたのは「カサノヴァ」のみです。

 注目すべきはセルフ・カバー5曲のうち4曲までがファースト・アルバムからの楽曲だというところです。イーノの色が濃厚だったアルバムですし、フェリーのボーカルも処理されたようなサウンドになっていましたから、ボーカリストとしては面白くなかったのでしょう。

 このためか、「リメイク/リモデル」などはR&B色が濃厚な大胆なアレンジが施されており、これはこれで秀逸ではありますけれども、やはり全体にオリジナルの印象が強すぎて、なかなか馴染めません。何となく企画物としてとらえている自分がいます。

 そこへいくとソロの恒例たるカバー曲は相変わらずセンスが良くて素敵です。特にタイトルにもなった「レッツ・スティック・トゥゲザー」はフェリーの代表作ともいえます。アメリカのR&B歌手ウィルバート・ハリソンの1962年のヒット曲が独特の粘っこい歌唱で甦りました。

 この曲のMVには、当時フェリーさんの婚約者だったスーパーモデルにして運命の女ジェリー・ホールが登場します。妖艶な魅力をまき散らしていますけれども、この時はまだ20歳前だということに驚きます。フェリーさんも30歳くらい、西洋人は大人びています。

 異論をはさむ人もいるのですが、この曲で素晴らしいアクセントになっている叫び声はジェリー・ホール本人によるものだとジェリー自身が語っています。サックスも含めてとにかくゴージャスな演奏にはスーパーモデルの雄たけびが必要です。素敵です。

 他にカバーされているのは、「バイ・バイ・ラヴ」で有名なエヴァリー・ブラザーズの「プライス・オブ・ラヴ」、これまたアメリカのブルース歌手ジミー・リードの「シェイム・シェイム・シェイム」、1930年代のスタンダード・ソング「ユー・ゴー・トゥー・マイ・ヘッド」。

 さらにスコットランドのデュオ、ギャラガー&ライルの1970年代のヒット「ハート・オン・マイ・スリーヴ」、そしてビートルズの「イッツ・オンリー・ラヴ」です。今回ももちろんすべてが恋の歌です。曲のアレンジの仕方も含めて、今回は全体にR&B色が強いです。

 注目は「イッツ・オンリー・ラヴ」です。ビートルズの数ある楽曲の中でこれを選ぶところがフェリーさん。ジョン・レノンが時々書く、べたな恋の歌ですね。この流れは後に大ヒットする「ジェラス・ガイ」の選曲に素直につながっていきます。

 本格的なソロ活動というよりも、まずは名刺代わりの一枚というところです。すけべひげの評価は分かれるところでしょうが、さわやかに脂ぎったフェリーさんの魅力が全開です。とはいえ、中途半端なアルバムだけに初めて全英トップ10を逃してしまいました。

Let's Stick Together / Bryan Ferry (1976 Island)

*2013年3月2日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Let's Stick Together
02. Casanova
03. Sea Breezes
04. Shame, Shame, Shame
05. 2HB
06. The Price Of Love
07. Chance Meeting
08. It's Only Love
09 You Go To My Head
10. Re-Make / Re-Model
11. Heart On My Sleeve

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, keyboards, harmonica
***
Chris Spedding : guitar
Paul Thompson : drums
John Wetton : bass
Chris Mercer : tenor sax
Mel Collins : soprano sax
Martin Drover : trumpet
Eddie Jobson : violin, synthesizer
Morris Pert : percussion
***
John Gustafson, Rick Willis, John Porter : bass
Phil Manzanera, David O'List, Neil Hubbard : guitar
Ann Odell : string arrangement
Vicki Brown, Doreen Chanter, Helen Chappelle, Paddie McHugh, Jackie Sullivan, Martha Walker : chorus