ブライアン・フェリーはダンディーなのか、それともダンディズムのパロディーなのか。今野雄二派と渋谷陽一派の意見が真っ向から対立していました。ダンディーだとするには変な佇まいですし、パロディーにしては醒めていないので、私は両派の間を右往左往しています。

 フェリーさんは、ソロ第二作目「いつか、どこかで」ではダンディーの極みともいうべきファンシーなタキシードを身にまとっています。裏ジャケにはパーティー客とおぼしき着飾った男女四人がプールサイドに写っています。英国の階級社会を象徴するかのようなジャケットです。

 裏ジャケの男女がピンボケになっているところに、パーティーには飽き飽きしている貴族を演じるフェリーさんの心象風景が感じられます。ダンディズムを演じ切るフェリーさんは素敵です。これでプールにダッチワイフが浮かんでいれば最高でした。

 本作品にはオリジナル曲が1曲含まれていますが、基本的には前作に引き続いてカバー集です。それも今野氏によれば、前作の豪華版、デラックス・ヴァージョンです。フェリーさん自身もその意見を否定していませんから、ほぼ確定といっていいでしょう。

 選ばれた楽曲はジョー・サウスやウィリー・ネルソン、クリス・クリストファーソンなどのカントリー系と、サム・クックやアイク・ターナーなどのソウル系が多いですが、数少ないもののやはり「ユー・アー・マイ・サンシャイン」などスタンダードが目を惹きます。

 これはおそらく落ち着いたゴージャスなアレンジが施されているからだと思います。そして、選曲が歌詞中心と思われることも一因でしょう。すべて恋の歌で、その多くは失恋の曲です。なお、フェリーさんのカタログ趣味はサム・クックの「ワンダフル・ワールド」に健在です。

 歌詞中心の極みは「ヘルプ・ミー・メイク・イット・スルー・ザ・ナイト」です。今野氏は、♪何が正しくて何が間違っているかなんてどうでもいい♪という一節を歌いたいがためにが選ばれた説を提唱しており、この説をぶつけられたフェリーさんも否定していませんでしたね。

 かようにゴージャスなスタンダード風アルバムとなると、フェリーさんの歌の変さが際立ってきます。この人の声は大好きなのですが、普通の意味で歌がうまいと言い切れないところがいいです。下手というわけでもありません。どこか逸脱している不思議な歌唱です。

 さて、唯一のオリジナルであるタイトル曲はプルーストの「失われた時を求めて」に刺激されたであろうことが明らかな世界を3部構成でゴージャスに展開する曲です。この曲でも、ロキシー・ミュージックとは違う世界が展開されています。初期ロキシーはやはりバンドでした。

 全体に地味なため、フェリー作品の中では印象が薄いです。しかし、私には「ユー・アー・マイ・サンシャイン」が暗い失恋の歌だったんだという発見が強く印象に残っています。英国では、この地味さが受けたのか、この作品は前作を上回る全英4位を記録しています。

 ところで、冒頭の問いに戻りますが、フェリーさん自身は、「ミスター・ダンディーと呼ばれてどうか」と聞かれて、「私はミスター・ミュージックと呼ばれたい」とパーフェクトな答えをされておりました。ただ、「ミスター・ミュージック」に呼ぶにはどこか妙になフェリーさんなのでした。

Another Time, Another Place / Bryan Ferry
(1974 Island)

*2013年2月14日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The 'In' Crowd
02. Smoke Gets In Your Eyes 煙が目に染みる
03. Walk A Mile In My Shoes
04. Funny How Time Slips Away
05. You Are My Sunshine
06. (What A) Wonderful World
07. It Ain't Me Babe
08. Fingerpoppin'
09. Help Me Make It Through The Night
10. Another Time, Another Place

Personnel:
Bryan Ferry : vocal, harmonica, organ
***
David O'List, John Porter : guitar
John Wetton : bass, fiddle
Henry Lowther : trumpet
Chris Mercer : tenor sax
Ruan O'Lochlainn : alto sax
Chris Pyne : trombone
Paul Thompson : drums
***
Tony Carr, Tony Charles, Don Cirilo, Paul Cosh, Jeff Daly, Martin Drover, Bob Efford, Malcolm Griffiths, Jimmy Hastings, Morris Pert, John Punter, Alf Reece, J. Peter Robinson, Ronnie Ross, Bruce Rowland, Steve Saunders, Alan Skidmore, Winston Stone