スウェーデン発祥で、現在はアメリカで活動しているダーク・アンビエントに特化したレーベル、クリオ・チェンバーによる「トゥーム」シリーズ第四弾です。今回のタイトルは「トゥーム・オブ・オーディール」です。「苦難の墓」とでも訳しましょうか。

 「トゥーム」シリーズはこれまでに、帝国、予言者、ドルイド僧を葬ってきました。本作品では具体的な対象があるわけではなく、囚われ人が直面した苦難、あるいは試練を対象にしています。神盟裁判とも解せますから、権力によって断罪され、虐殺された人々です。

 レーベルによる本作品の説明です。「囚われよりこの方、この湿った石の壁がお前の牢獄であり、永遠の家なのだ。脱出しようと爪を壁に立てるにつれて、血と骨髄の匂いがお前の肺を満たす。未来の墓へと深く潜っていけばいくほど、空気はより邪悪なものになっていく」。

 「遠い叫び声が耳に迫り、吸いつくような音が暗闇の中で這いずり回る。これがお前の苦難だ。お前もこれらの石に縛られた魂になるだろうか?」。恐ろしい言明です。ジャケットには虐殺の場面を描いた絵が用いられており、見開きには骨があしらわれています。

 場面は整いました。このレーベルがフィジカルなメディアにこだわる理由も分かる気がします。本作品も500枚限定ながらしっかりとCDとしてパッケージされており、苦難に寄りそう禍々しい音楽をしっかりと具現化しています。配信ではこの感じは出せません。

 本作品は8組のアーティストが1曲ずつ、計8曲を収録しています。まずはスウェーデンのウプサラ出身のステファン・サンドバーグによるプロジェクト、オリュスです。2013年から活動しており、クリオ・チェンバーではお馴染みのアーティストです。

 続く、ドロニー・ダルコはウクライナのアーティストで本名をオレー・プーザンといいます。戦争が続くキエフで活動を続けている人です。アジュナはクリス・Fのプロジェクトでこちらはニューヨークのアーティストです。息の長い活動を続けています。

 アサト・レオンはスロバキアのアーティスト、ミケル・ポルガーによるプロジェクトで、リチュアル・アンビエントと自称しています。プラメン・ヴァイクノスチはセルビアのマルチ楽器奏者、シフル・シュラッダによるダーク・アンビエント・プロジェクトです。
 
 アポクリフォスはロバート・コズレツキーによるプロジェクトで、こちらは米国のペンシルヴァニアで活動しています。カット・ザ・ライトは正体不明のアーティストですが、ジョージア共和国のレーベルからアルバムを発表するなどしています。クレジットにあるイゴールでしょうか?

 最後のエンマルタはヴィオラ奏者でもあるジーグフリード・Lによるプロジェクトです。顔ぶれを見ればわかる通り、スラブ系に偏っている気もしますが、いずれにせよ国籍がばらばらです。ダーク・アンビエントにはまさに国境がありません。

 いずれも不穏なドローンを背景にしたダーク・アンビエント作品で、正直に申し上げて、あまり区別がつきません。環境に溶け込むアンビエントの宿命でしょう。とはいえ、それぞれの楽曲は空気をしっかりとダークに染め上げており、アンビエントとしての効用は高いです。

Tomb of Ordeals / Various Artists (2019 Cryo Chamber)



Tracks:
01. Hraesvelgr (Oljus)
02. Geist (Dronny Darko)
03. Yacumo (Ajna)
04. Urn Of The Sleeper (Asath Reon)
05. Fear Is The Mother Of All (Plamen Vecnosti)
06. Nightside Ordeal (Apocryphos)
07. Incarnat (Cut The Light)
08. Deus Ex Caedem (Enmarta)