英国のプログレッシブ・ロック・バンドの中でも特異な位置を占めるヘンリー・カウが発表したライヴ・アルバムです。振り返っての発売は多々ありますが、同時代に発表されたライヴ作品は本作だけです。その名も「コンサーツ」、さまざまなライヴのコンピレーションです。

 2枚組ですからまだまだ収録に余裕があるということで、再発されるたびに楽曲が増えていくアルバムです。手元の作品は2015年にリマスターされた今のところ最新の決定盤です。オリジナルは19曲でしたけれども、この決定盤は26曲にまで増殖しています。

 最初に登場する5曲はヘンリー・カウ最後のBBCジョン・ピール・セッションからの音源です。1975年8月です。ここでは彼らの「伝説」や「傾向賛美」、そしてマッチング・モールの「リトル・レッド・レコード」からの曲が演奏されています。ダグマー・クラウゼの歌が光ります。

 続いて1975年5月にニュー・ロンドン・シアターで行われたコンサートからのライヴが2曲。ここにはロバート・ワイアットがゲストで参加しており、スラップ・ハッピーとの合体アルバム「悲しみのヨーロッパ」からの曲とワイアットの「ロック・ボトム」からの曲がデュエットされます。

 次いで1975年10月に行われたイタリアのウーディネでのコンサートから、ヘンリー・カウの代表曲である「廃墟」が収録されています。「不安」からの名曲を完璧に演奏しています。と、ここまでがあらかじめ作曲されていた曲のライヴ・バージョンということになります。

 ここからはボーナス・トラックを含めてすべてがインプロヴィゼーションによる楽曲となります。オリジナルでは大たい1対1の割合でしたが、ボーナスがこちらに偏っているため大幅に即興の割合が増えてしまいました。ヘンリー・カウというバンドの性格がよく分かります。

 即興パートは、オリジナルでは、まず1975年7月のノルウェーはオスロの美術館でのライヴ、次いで1974年9月のオランダはフローニンゲンでのライヴ、そして「廃墟」と同じウーディネのライヴとなっています。フローニンゲンには時期的にクラウゼは参加していません。

 ボートラ収録は1973年に発表されたヴァージン傘下のキャロライン・レーベルによるオムニバス・ライヴ・アルバム収録曲です。このライヴはキャメルやゴングなどと並んで行われたのですが、機材の不調でとりを務めたヘンリー・カウのみスタジオで録り直されました。

 このライヴは、リンゼイ・クーパーではなくジェフ・リーが参加していたこと、フレッド・フリスのソロを含めさまざまな編成で演奏が行われたことから、ちょうどボートラとしては座りがいいです。ここにマイク・ウェストブルックのバンドとの共演が加わってボートラは完結です。

 作曲された曲のライヴ・バージョンも含めて、ヘンリー・カウのライヴでの即興を交えた演奏ぶりがとにかく嬉しいです。ボーカルのクラウゼはどう即興をこなすのか注目して聴いてみますと、オスロでのライヴで絶叫しているのが聴こえてきて得心しました。かっこいいです。

 本作品を聴くと、ヘンリー・カウの即興演奏への向き合い方が分かります。各自のソロを中心としたり、リズムを主体としたりする即興とは異なり、曲の構造も含めあらゆる方向に自由な即興です。ヨーロッパのフリー・ミュージック・シーンに確たる地歩を築くカウならではです。

Concerts / Henry Cow (1976 Compendium)



Tracks:
(disc one)
01. Beautiful As The Moon : Terrible As An Army With Banners 月のように美しく、軍旗はためく軍隊のように恐ろしく
02. Nirvana For Mice 鼠の涅槃
03. The Ottawa Song
04. Gloria Gloom
05. Beautiful As The Moon Reprise 月のように美しく・リプリーズ
06. Bad Alchemy 悪しき錬金術
07. Little Red Riding Hood Hits The Road
08. Ruins 廃墟
09. Groningen フローニンゲン
10. Groningen Again フローニンゲン再び
(disc two)
01. Oslo I
02. Oslo II
03. Oslo III
04. Oslo IV
05. Oslo V
06. Oslo VI
07. Oslo VII
08. Oslo VIII
09. Off The Map * 地図から外れて
10. Café Royal *
11. Keeping Warm In Winter / Sweet Heart Of Mine * 寒さ知らずの冬/私の優しい心
12. Udine
13. Silence 沈黙
14. Bellycan *
15. Untitled * 無題
16. Would You Prefer Us To Lie? * 嘘をつかせたいわけ?
* bonus track

Personnel:
Lindsay Cooper : bassoon, flute, oboe, piano
Chris Cutler : drums, piano
Fred Frith : guitar, piano, violin, xylophone
John Greaves : bass, voice, celeste, piano
Tim Hodgkinson : organ, clarinet, alto sax
Dagmar Krause : voice, piano
Geoff Leigh : tenor sax, soprano sax, recorder, flute, clarinet
***
Robert Wyatt : vocal
The Orckestra
Georgie Born : bass, cello
Mike Westbrook : piano
Kate Westbrook : piccolo tenor horn
Dave Chambers : soprano sax, tenor sax
Paul Rutherford : trombone, euphonium
Phil Minton : vocal, trumpet
Frankie Armstrong : vocal