サン・ラーは60年近くに及ぶ活動期間のうちにわずかに一度だけ日本で公演を行いました。その記録が本作品です。主目的は1977年から1992年まで日本で開催されていたジャズ・フェスティバル、ライブ・アンダー・ザ・スカイへの出演です。1988年のことです。

 1988年の同イベントは各地を巡回する形で行われました。7月31日の東京よみうりランド、8月3日富山太閤山ランド、6日に福岡の中道海浜公園、7日に大阪万博記念公園と結構ハードなスケジュールです。フェスの目玉は復活したマイルス・デイヴィスでした。

 よみうりランドの回はテレビやラジオでその模様が放送され、サン・ラーの演奏もフィルムに収められました。わずか15分ほどだそうですが、貴重な映像記録です。なお、ラジオでは30分程度、実際の演奏時間も1時間にも満たないものだったそうです。

 フェスの合間を縫って単独公演も行われました。8月1日と2日が渋谷クラブクアトロ、8日が新宿ピットインです。本作品はこの新宿ピットインでのライヴを収録したアルバムです。もともとはライブと同じ年に、8曲のみ、約1時間を収録した単独CDとして発表されました。

 その後2015年に16曲入りのCDとなり、2024年に2枚組20曲収録の完全盤として発表されました。サン・ラーのライヴは音質の悪いものが結構多い中で、本作品は制作陣の熱い情熱もあり、音質には高い評価を得ているだけに実にありがたいことです。

 アーティスト名はシンプルにサン・ラ・アーケストラとクレジットされていますが、ライブでは♪サン・ラー・アンド・ヒズ・コスモ・オムニバース・イマジナブル・イクエイジョン・アーケストラ♪と紹介されています。気合の入ったマシマシの名前です。

 この名前に象徴されるように、サン・ラーのこれまでのさまざまな音楽が、CD2枚組をフルに使った約2時間半に詰め込まれています。サン・ラーとアーケストラの面々にとっても気持ちのよいライブだったに違いありません。観客の反応も申し分ありませんし。

 サン・ラー・アーケストラはここでは14名の所帯です。中にはダンサーのジュディス・ホルテンがいますから、演奏しているのは13名です。中心メンバーのマーシャル・アレンとジョン・ギルモアはもちろん参加していますし、ボーカルのジュディ・タイソンもいます。

 演奏されている曲には多くのスタンダード曲が含まれています。ジェローム・カーンの「ホワイ・ワズ・アイ・ボーン?」やデューク・エリントンの「プレリュード・トゥ・ア・キス」、スタン・ゲッツなどで有名な「イースト・オブ・ザ・サン」、コールマン・ホーキンスの「クイア・ノーション」など。

 ここではこうしたスタンダード曲をビッグ・バンド・スタイルでスウィングしています。こうした演奏に並ぶように、暗黒ビートにタイソンのボーカルが冴える「アストロ・ブラック」やお馴染みの「ディシプリン」などサン・ラーらしい楽曲がさく裂します。

 もはや75歳となったサン・ラーですが、宇宙の神秘を感じさせる演奏は健在です。最高の音質で、さまざまな顔のサン・ラーが堪能できる素晴らしい作品です。完全盤が登場して本当に良かった。ピクチャー・ディスクも再現してくれていれば完璧でした。

Live at Pit-Inn Tokyo, Japan, 8.8.1988 / Sun Ra Arkestra (1988 DIW)



Tracks:
(disc one)
01. Introduction ~ Cosmo Approach Prelude
02. Deciplin 27 B
03. Angel Race ~ I Wait For You
04. Tokyo Dance Blues
05. Queen Notions
06. Chopin: Prelude
07. I Want To Be Happy
08. If You Come From Nowhere Here
09. East Of The Sun
10. Can You Take It?
11. We Travel The Space Ways
(disc two)
01. Prelude Avantgarde No.2
02. Astro Black
03. Prelude To A Kiss
04. Frisco Fog
05. Why Was I Born
06. Opus Spring Time
07. Interstellar Lo-Ways
08. Cosmo Swing Blues
09. Space Is The Place

Personnel:
Sun Ra : piano, synthesizer, vocal
Michael Ray : trumpet, vocal
Ahmed Abdullah : trumpet
Tyrone Hill : trombone
Marshall Allen : alto sax, flute, percussion
John Gilmore : tenor sax, clarinet, timbales, vocal
Danny Ray Thompson : baritone sax, percussion
Eloe Omoe (Leroy Taylor : alto sax, bass clarinet, contra-alto clarinet, percussion
June Tyson : violin, vocal
Bruce Edwards : electric guitar
Rollo Radford : electric bass
Samarai Celestial (Eric Walker) : drums
Earl "Buster" Smith : drums
Judith Holten : dance