タンジェリン・ドリームのスタジオ・アルバムとしては8作目となる「サイクロン」です。ここのところメンバーが安定していたタンジェリン・ドリームでしたけれども、本作品では大幅なメンバー交代がありました。ファンの間では第四期タンジェリン・ドリームと称されます。

 いつかいつかと言われていたピーター・バウマンの脱退が米国ツアー終了後に現実のものとなりました。後任にはスティーヴ・ジョリフとクラウス・クリューガーという二人のミュージシャンが採用されています。トリオ編成からカルテット編成へと膨らんだわけです。

 ジョリフはイギリス人で、後にスーパートランプとなるバンド、ジョイントでキャリアをスタートさせ、スティームハンマーなるブルース・ロック・バンドで活動していた人です。エドガー・フローゼとはドイツに音楽留学をしていた際に知り合ってセッションをしていた縁があるそうです。

 一方、クリューガーもフローゼの古くからの知り合いで、ベルリンの音楽シーンでカスタマイズしたドラム・セットを使ったドラミングで知られていたそうです。ジョリフは今作限りですが、クリューガーはしばらくタンジェリンに在籍したのち、ソロで活躍することになります。

 いかにも急ごしらえですが、フローゼにはメンバーを整えなければならない理由がありました。すでに2年前からスタジオを1か月間抑えていたというのです。バウマンの脱退を予期していなかったのでしょう、実際に急ごしらえだったわけです。

 タンジェリン・ドリームは事前に曲を用意してスタジオ入りすることなど稀なことですから、今作も事前には何も決めずにスタジオに入ったようです。しかし、三人が一体となる神がかった状況が急ごしらえのメンバーの間に発生するとは思えず、制作は大変だった模様です。

 フローゼは「みんなが違うメロディーや違うことをやりたがって、大変なトラブルに直面していったんだ」と語っています。そんな中でもなんとか良いトラックを作り上げましたが、またしても「みんながそれに違うものを重ねていきたがったんだ」という状況でした。

 それで、とうとうジョリフに歌わせることにしたということです。本作品はタンジェリンとしてはほぼ初めての歌入り作品なのですが、当初から計画していたわけではないのですね。フローゼはジョリフの歌は最悪だと感じており、この作品をそれ以来聴いていないそうです。

 確かにジョリフのボーカル部分は1978年という時期を考えてもやや古臭いプログレ・スタイルです。少し後にくるシンセ・ポップを先どりすることも可能な時期だっただけに少し残念です。ただ、歌入りは全三曲のうちのA面に配された二曲で、曲の中でも比重は小さいです。

 しかし、この第四期TD、ジョリフの管楽器による彩りもさることながら、クリューガーの生ドラムがTDサウンドに新たな風を送り込んでいます。何でもバスドラがないセットらしく、そのシンプルなサウンドがシーケンサーと重なると何とも素敵な世界が生まれています。

 これまでのTDサウンドと地続きなのですが、みんながいろんなことをしたがったという通りの忙しい展開が面白いアルバムです。英国では37位としっかりチャートインしています。まだまだタンジェリン・ドリームのエレクトロ・サウンドは新鮮だったのです。

Cyclone / Tangerine Dream (1978 Virgin)

参照:"'Cyclone':Tangerine Dream Add New Layers Of Flavor"Paul Sexton (udiscovermusic 2024)



Tracks:
01. Bent Cold Sidewalk
02. Rising Runner Missed By Endless Sender
03. Madrigal Meridian
(bonus)
04. Haunted Hights
05. Baryll Blue

Personnel:
Edgar Froese : synthesizer, Mellotron, guitar
Christopher Franke : synthesizer, Mellotron, sequencer
Steve Jolliffe : vocal, horns, woodwinds, keyboards, synthesizer, piano
Klaus Krüger : drums, percussion