ジャケットにはパイプをくわえたナマケモノが描かれています。顔はメガネザルですけれども、このぶら下がり方はナマケモノそのものです。パイプをくわえることは趣味ですら面倒くさいナマケモノらしくはありませんが、妙に老成した感じが面白いです。

 鮮烈なジャケットでした。当時、ロックを聴き始めたばかりの私は、定番の音楽誌「ミュージック・ライフ」をむさぼるように読んでいました。そこにこのアルバムの広告が掲載されていて、その画像が脳裏に深く深く刻まれたのでした。一生忘れないでしょう。

 本作品は四人囃子のメジャー・デビュー作「一触即発」です。ジャケットのアイデアは本人たちのものだそうです。まだ20歳を越えたばかりの若者四人組がナマケモノを選ぶ。面白いです。ジャケットには他にも亀や象が描かれています。気負いというより余裕を感じます。

 四人囃子は都立鷺宮高校の文化祭を契機に誕生したバンドです。青春です。彼らは高校時代にピンク・フロイドの「エコーズ」を完コピできるバンドとしてならしたそうで、デビュー時にはすでにギターの森園勝敏を筆頭に、その実力は日本のロック界に知れ渡っていました。

 そういうわけで、本作品はデビュー作であるにもかかわらず、当時の日本のロックにしてはメディアで大きな扱いを受けていました。ミュージック・ライフ誌でも全面広告をうっていましたし、洋楽コンプレックスを吹き飛ばす存在として大きな期待を集めていたのです。

 私自身はリアルタイムではスルーしてしまったのですが、強烈なジャケットの印象に加えて、彼らに関するさまざまな伝説めいたエピソードのせいで、ずいぶん後になって初めて聴いた時にも大そう懐かしく思ったものです。その意味ではまさに伝説のアルバムです。

 収録曲は全部で5曲、最初と最後に短めのインストゥルメンタル曲と、それに挟まれる長尺の曲3曲でアルバムが出来ています。彼らはプログレッシブ・ロックだと言われていたのですが、このアルバム構成などはまさにそれを意識してのことと思います。

 確かにキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマー、ジェネシスといったプログレ界の巨人たちの影響があちらこちらに顔を出します。世間的にはピンク・フロイドの影響が強いとも言われています。いずれにしてもプログレには違いありません。

 ただし、森園は、オールマン・ブラザーズ・バンドの「『ウィッピング・ポスト』みたいのやろうと思って『一触即発』ができちゃったの」と発言しています。こちらは全然プログレではありませんが、少しわからないではありません。作品というのは面白いものです。

 歌詞は日本語です。コピーライターの末松康生の詞が曲の先にありました。この普通の言葉を使ったシュールな歌詞の曲への乗せ方が素晴らしい。ゆらゆら帝国を思い出しました。当時はまだ日本語でロックできるかという論争がありましたが、実につまらない話ですね。

 当時の日本ロック界にあっては珍しく存在の仕方が暑苦しくなくて、すごくかっこよかったことを覚えています。こうして改めて聴いてみると、プログレッシブ・ロックそのもののサウンドも素晴らしいです。いい具合に年代を経て、ヴィンテージの味わいもする素敵な作品です。

**投稿日時の設定を間違えてしまってました。悪しからず。

Ishoku-Sokuhatsu / Yoninbayashi (1974 東宝)

*2012年6月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. [hΛmǽbeΘ]
02. 空と雲
03. おまつり
04. 一触即発
05. ピンポン玉の嘆き
(bonus)
06. 空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ
07. ブエンディア

Personnel:
森園勝敏 : vocal, guitar
中村真一 : bass, chorus
岡井大二 : drums, percussion
坂下秀実 : piano, organ, mellotron, synthesizer
***
石塚俊 : congas
佐久間正英 : bass
茂木由多加 : keyboards