リンク・レイは活動期間も長いのでいつの時代の人なのか分かりにくいですが、1960年に発表された本作品「リンク・レイ&ザ・レイメン」が正真正銘のデビュー作品です。この作品、なかんずく収録のシングル曲「ランブル」でレイはギターに革命を起こしたのでした。

 その革命とは、パワー・コードの活用であり、ディストーションの意識的な導入です。当時の録音技術では意図せずにギター音に歪みが生じることがあり、それは何とか排除しなければならない雑音でした。レイはそれを逆手にとってヘヴィなギター・サウンドを作り上げました。

 レイは1929年に三人兄弟の真ん中として生まれました。8歳の時に通りすがりの黒人ギター奏者からボトルネック・スライドギターを教わり、14歳の時にはジャズ・バンドで演奏を始め、以降、ハンク・ウィリアムスやレイ・チャールズにのめり込むようになっていきます。

 主にワシントンDCを拠点として兄弟とともにバンドを組んで活動していたレイは、DCでTVショウをホストするミルト・グラントの眼にとまり、彼のショウやパーティーでハウス・バンドとして活躍します。そして、レイは彼のパーティでザ・ダイアモンズと運命の共演をします。

 「アメリカン・グラフィティ」にも収録されている彼らの大ヒット曲「ザ・ストロール」を演奏することになったレイでしたが、曲を知らなかったにもかかわらず、とにかくアンプにプラグを差し込んで爆音で演奏したところ、ディストーションがかかってしまい、これが観客に大うけします。

 ジャクソンもダイアモンズも恐れをなして逃げてしまい、レイとバンドだけでインストゥルメンタル・セットを4回も続けたそうです。レイはこれをレコード化しようとしますがなかなか思った「汚い音」が出ず、最後はアンプのスピーカーに鉛筆で穴をあけてやっと思いを遂げます。

 録音した楽曲をレコード会社に送ったものの相手にされませんでした。しかし、ケイデンス・レコードの社長の手にわたると、まだ10代だった社長の娘さんがこれを大そう気に入り、「ウェスト・サイド物語」にひっかけて「ランブル」と勝手に命名しました。

 社長は綺麗な音で録り直すようにレイに懇願しましたが、レイはこれを拒否、こうして発売された「ランブル」はインストゥルメンタルであるにもかかわらず風紀を乱すと放送禁止になる地域も出るなどセンセーションを巻き起こします。結果は特大ヒット、時代を一つ進めました。

 この曲はピート・タウンゼントやジミー・ペイジに大きな影響を与えるなど、すべてのハード・ロックの礎となりました。本作品はその「ランブル」を含むレイのデビュー作で、曲はすべてインストゥルメンタル、レイが「汚い音」のギターを弾きまくっています。

 この時代のロック・スターを聴く時にはつい歴史のお勉強的な聴き方になってしまいがちですが、レイの場合にはそうはなりません。このデビュー作をパンク勢と並べても違和感などないでしょう。レイのギターは、70年代、80年代のすべてのロックの礎です。

 この後、レイの活動は何度か途切れながらも21世紀にまでつながっていきます。そして何度も再評価の波が訪れます。タランティーノの「パルプ・フィクション」に「ランブル」が収録されたこともそのきっかけの一つでした。このサウンドを聴けばリスペクトが自然にわいてきます。

Link Wray & The Wraymen / Link Wray (1960 Epic)



Tracks:
01. Caroline
02. Slinky
03. Right Turn
04. Rendezvous
05. Dixie-Doodle
06. Rumble
07. Hand Clapper
08. Raw-Hide
09. Lillian
10. Radar
11. Comanche
12. Studio Blues
(bonus)
13. Mary Ann
14. Trail Of The Lonesome Pine
15. Rumble (alternate take)
16. Golden Strings
17. Ain't That Lovin' You Baby
18. Comanche
19. Slinky (alternate take)
20. Radar (alternate take)
21. Mary Ann (alternate take)
22. Ain't That Lovin' You Baby (alternate take)
23. Walkin' With Link
24. Danger One Way Love
25. Johnny Bom Bonny
26. Roughshod
27. I'm Countin' On You
28. Right Turn (alternate take)

Personnel:
Link Wray : guitar
Vernon "Lucky" Wray : vocal, rhythm guitar
Doug Wray : drums
Brantley "Shorty" Horton : bass