タンジェリン・ドリームの1977年米国ツアーの模様を記録したライヴ・アルバムです。LPでは2枚組の大作で、タイトルは「アンコール」とつけられました。ジャケットには星条旗があしらわれており、その意外な取り合わせに驚いたものでした。

 アルバムは司会者によるバンド紹介で始まりますが、そこでの観客の歓声がまた熱狂的です。これまたタンジェリン・ドリームのイメージとは大きく異なり、まるでポップ・スターのようです。実際にアンコールも行われたのでしょう、実際にポップ・スターなのです。

 タンジェリン・ドリームはヴァージン・レコードから発表した「フェードラ」と「ルビコン」で英国ならびに欧州で人気を沸騰させましたが、やがてこの人気は米国にも飛び火します。実際、米国ツアーのチケットはわずか数日で完売した会場が多かったとのことです。

 会場にはロンドン・プラネタリウムから提供されたレーザーを使ったライト・ショウが展開されており、三人の演奏に花を添えています。もはや初期のタンジェリンの先鋭的なプログレッシブ・ロック・イメージに固執している場合ではありません。

 当時、タンジェリンの面々はライヴでは基本的に新作ないしは未発表曲しかやらないとするポリシーを堅持していました。ヴァージン・レコードはこれ幸いとツアーにおけるいくつかのステージを録音しており、そこから選ばれた音源がこの作品に結実しました。

 アルバムは2枚組LPの各面に15分から20分の楽曲が1曲ずつ配置されています。まず最初はツアーでは毎回演奏されたという「チェロキー・レイン」です。いかにも当時のタンジェリンらしいシーケンサーによるミニマルなビートにメロトロンが絡む名刺代わりの一曲です。

 ついで意表をついてクラシカルなグランド・ピアノのイントロに導かれて「モノライト」が始まります。「浪漫」からのテーマが見え隠れしたり、シングルとして切り取られて「ホボ・マーチ」と名付けらるポップ・シーケンスが出てきたりとなかなかのエンターテインメントです。

 これまたツアーではほぼ毎回演奏されたという「コールド・ウォーター・キャニオン」が登場、ここではぴこぴこしたリズムをバックにエドガー・フローゼによる長々としたギター・ソロが堪能できます。まるでジミ・ヘンドリックスのようです。フローゼのロック魂さく裂です。

 最後の「デザート・ドリーム」はドローンを主体としたコラージュ作品で、ドイツ時代のタンジェリン・ドリーム・サウンドを彷彿させます。こうしてみると4曲ともに個性的で、ライヴは意外にも山あり谷ありの起伏に富んだ時間であったことが分かります。

 一つ前のライヴ盤「リコシェ」が疑似ライヴ的だったのに対し、こちらは堂々としたライヴ盤です。バンドはすっかりエンターテインメントとしての自信を深めたことでしょう。本作品もさほど上位ではありませんが、英米でチャート入りしています。

 しかし、残念なことに本作品はピーター・バウマンにとっては最後の作品になってしまいました。バウマンはこれまでも出入りを繰り返していましたが、ついにツアー終了後に脱退してしまいました。タンジェリンには欠かせない絶妙なポップ職人だっただけに残念です。

Encore / Tangerine Dream (1977 Virgin)



Tracks:
01. Cherokee Lane
02. Monolight
03. Coldwater Canyon
04. Desert Dream
(bonus)
05. Encore
06. Hobo March

Personnel:
Edgar Froese : guitar, piano, mellotron, synthesizers
Christopher Franke : mellotoron, synthesizers
Peter Baumann : piano, mellotron, synthesizers