ブラック・サバスの5枚目のアルバム「血まみれの安息日」は難産の末に生まれました。前作から1年以上という点では前作と同じですけれども、今回は制作途上でバンドの存続が危ぶまれるような事態に陥っていたといいますから話は深刻です。

 前作「ブラック・サバス4」はいろいろあったとはいえ大成功をおさめ、その後のツアーも盛況のうちに終わりました。ブラック・サバスの面々はこの勢いを絶やすまいと、前作と同じロサンゼルスのスタジオに戻ってアルバム制作にかかりました。

 しかし、この時点でバンドは疲弊しきっており、まるで曲想がわかないという事態に直面します。責任を感じてパニックになったトニー・アイオミはライヴの後で倒れてしまいました。一時は深刻な状況だったそうで、バンドは存続の危機にあった模様です。

 バンドは失意のうちにロスを離れると、英国に戻り、イングランドのグロチェスターシャーにあるクリアウェル城にこもります。この城はレッド・ツェッペリンやディープ・パープル、モット・ザ・フープルなども曲を書いて録音したという、ロック界でも有名なお城です。

 ここでブラック・サバスは俄然元気になります。お城のダンジョンでリハーサルしていると幽霊が出たというのです。アイオミは確かに幽霊を見たと断言しています。そうなんです。ブラック・サバスが元気がなかったのはオカルト成分が不足していたからだったのです。

 アイオミはここで「血まみれの安息日」のリフを見つけます。サバスの楽曲の中でも人気の高いヘヴィなリフです。ここからは一気呵成にアルバムが出来ていったということです。頭の中で糞詰まっていたアイデアがあふれ出たのでしょう。便秘は見事に解消です。

 しばしばこの作品でブラック・サバスはポップ志向にかじを切ったといわれるようですが、たとえばレインボーの「シンス・ユー・ビン・ゴン」のような曲があるわけでもなく、ポップと言われる筋合いはないような気がします。しいて言えば「ルッキング・フォー・トゥデイ」くらいです。

 前作でかなり音楽の幅を広げたサバスですから、本作品のサウンドは素直に前作の延長にあるといって差し支えないと思います。ここでの新奇性はストリングスの導入ということになります。アルバム最後の「スパイラル・アーキテクト」がそれです。

 ただ、これまでもメロトロンを多用していましたから、生のストリングスを入れたからといってさほど驚くことはないように思います。この曲も含め、アルバム全体はヘヴィなロック・サウンドが充満しています。そもそもこの頃はオジー・オズボーンが歌うと何でもヘヴィで禍々しい。

 アルバムには当時イエスにいたリック・ウェイクマンが一曲ゲスト参加しています。また、カバーのイラストはドリュー・ストルーザン、後に「スター・ウォーズ」や「ブレードランナー」などの映画ポスターなどで有名になる人です。いろいろと話題に事欠かないアルバムです。

 本作品もまた大ヒットしました。英国では4位、米国では11位でプラチナ・ディスクに輝いています。制作過程はいざ知らず、素直に前作の延長と受け止めた人が多かったのでしょう。ブラック・サバスはオカルトの血をすすりながら前進し続けるのでした。

Sabbath Bloody Sabbath / Black Sabbath (1973 Vertigo)



Tracks:
01. Sabbath Bloody Sabbath 血まみれの安息日
02. A National Acrobat
03. Fluff
04. Sabbra Cadabra
05. Killing Yourself To Live 生への自殺
06. Who Are You? おまえは誰だ?
07. Looking For Today
08. Spiral Architect

Personnel:
Ozzy Osbourne : vocal, synthesizer, tambourine
Tony Iommi : guitar, piano, synthesizer, harpsichord, organ, flute, bagpipes
Geezer Butler : bass, mellotron, mellotron
Bill Ward : drums, percussion
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Rick Wakeman : piano, Minimoog
Will Malone : conductor
The Phantom Fiddlers : strings