地中海の風が吹いてきました。私は残念ながら地中海とは縁遠く、わずかにスペインのイビザ島とトルコのイスタンブールに行ったことがあるのみです。どちらも地中海には違いないですけれども、マイナーですね。やはりエーゲ海じゃないと。

 このイケメンは、マウロ・パガーニ、イタリアの至宝ともいうべき素晴らしいアーティスト、イタリアで一二を争うバンドPFMの創設メンバーです。若い頃からクラシック・バイオリンを学んだパガーニは、PFMではバイオリンと木管楽器を担当していました。

 パガーニは1975年の「チョコレート・キングス」を最後にPFMを脱退しますと、地中海民族音楽の研究に勤しみます。2年間にわたる学術的研究を経て、発表された地中海の風をはらんだソロ作品がこの一枚です。セルフ・タイトルですが、邦題は「地中海の伝説」です。

 この作品は日本ではとても人気が高く、たとえば、ミュージック・マガジンの40周年記念アルバム・ランキングでは、堂々111位、イタリア出身のアーティストでは1位です。ユーロ・ロックが大嫌いな同誌でこれですから、プログレ系の雑誌が企画すれば必ず上位に入ります。

 キング・ユーロ・ロック・シリーズとして、レコードが日本でもほぼリアルタイムで発売になりまして、その後も、比較的途切れることなく日本盤が入手できる状態にあります。私もこの紙ジャケが三代目ですが、全部日本盤です。とても愛着のある作品です。

 アルバムは全部で8曲、バンド編成はそれこそ曲によって全然違います。イタリアを代表するバンド、アレアのメンバーとのセッションもあれば、PFMのメンバーとの曲もあり、ソロあり、デュオありと自由自在です。それでいて、アルバムに統一感が半端ない。

 ここではパガーニは、バイオリン、ヴィオラ、マンドリン、葦笛(?)、ブズーキと多彩な楽器を操っています。ブズーキはギリシャの民族楽器で、ギターとルーツが同じ弦楽器です。ザ・フォールも使っていましたし、わりといろいろなところで耳にする楽器です。

 このブズーキは強烈に地中海です。それもアジア、アラブ側の匂いがします。それにバイオリン。西洋クラシック音楽の王様楽器的な位置にあると思いますが、どうしてどうして。インドやアラブでは立派にそっちの世界の楽器として主役をはれる実力があります。民族楽器です。

 このように、本作品はイスラム、アラブの色が濃い地中海音楽に正面から取り組んだサウンドでなりたっています。ジャズやロックに地中海音楽を取り込んだというよりも、地中海音楽にジャズやロックを取り込んだというサウンドになっています。

 冒頭の「ヨーロッパの曙」からして凄い。伊藤直継氏はライナーノーツにて形容している通りの「奇数拍子複合高速ジャズロックナンバー」なのですが、この曲も地中海の風がびゅんびゅん吹いてきます。ここから最後まで一気に聴き通してしまうのがこの作品です。

 じわりじわりと来るんですよね。もう発表されてから35年近くたちますが、今でも新鮮に聴こえます。今日も久しぶりに聴いていて、とても幸せでした。三代目襲名もわかってくれるのではないでしょうか。地中海世界への扉はこの作品からどうぞ。

Mauro Pagani / Mauro Pagani (1978 Ascolto)

*2012年7月15日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Europa Minor ヨーロッパの曙
02. Argiento
03. Violer D'Amores 悲しみのヴァイオリン
04. La Città Aromatica 馨しき街
05. L'Albero Di Canto 木々は歌う(パート1)
06. Choron
07. Il Blu Incomincia Davvero 海の調べ
08. L'Albero Di Canto II 木々は歌う(パート2)

Personnel:
Mauro Pagani : violin, bouzouki, viola, mandolin, flute
***
Teresa De Sio, Demetrio Stratos : vocal
Giulio Capiozzo, Franz Di Cioccio : drums
Ares Tavolazzi, Patrick Djivas : bass
Franco Mussida, Luca Balbo : guitar
Mario Arcari : oboe
Giorgio Vivaldi, Pasquale Minieri, Walter Calloni : percussion
Patrizio Fariselli : piano
Roberto Colombo : synthesizer