イアン・ギランはディープ・パープルを脱退してから、一時、音楽業界から離れていました。しかし、ディープ・パープルで大成功を収めたギランのような人がそうそう別の世界で生きられるわけがありません。結局、2年余りの引退を経て、無事に音楽業界に復帰したのでした。

 復帰後のギランは、自身の名前を冠したイアン・ギラン・バンドを結成して作品を発表するようになります。本作品はイアン・ギラン・バンドのセカンド・アルバム、「鋼鉄のロック魂」です。もちろん原題は関係ありません。原題は直訳すると「晴天乱流」でした。

 この邦題を責めるわけにはいきません。私はこのアルバムのプロモーションのために来日したイアン・ギランが、テレビに出演して、自分の音楽を「ヘヴィ・メタル」だと話したことを確かに記憶しています。あの映像からは「鋼鉄のロック魂」が素直に出てきます。

 しかし、ここからがややこしい。この作品を含めて、復帰直後のイアン・ギランはいわゆるヘヴィ・メタルからは少し遠い。ディープ・パープルを思い描いていた人々はギランのサウンドに戸惑いを覚えることになりました。本作品にはホーン・セクションも導入されていますし。

 本作品のサウンドは、多くの人が分類する通り、ジャズ・ロックであり、フュージョンであり、プログレッシブ・ロック的です。最も近いバンドといえば、ブランド✕でしょうか。ギランのシャウトはヘヴィ・メタル的なのですが、サウンドは少し異なります。

 私などは、ヘヴィ・メタルなる言葉を始めて聞いたのがこのインタビュー映像だったものですから、このアルバムを勝手に元祖ヘヴィ・メタルに位置づけておりました。かなり時間が経ってから初めてこのアルバムを聴いて、大そう驚いたものでした。

 個人史的にはややこしいわけですが、素直に聴くとなかなか素敵なアルバムです。名うてのミュージシャンを集めたバンドですから、その演奏は素晴らしいです。アルバムには全部で6曲、いずれも5分から8分と長めの曲ばかり。演奏には自信がある証拠です。

 前作のレコーディングのために結成されたバンドでしたが、その後、ライヴもこなすようになり、バンドとしてのロック魂が際立ってきました。スペンサー・デイヴィス・グループにいたギタリスト、レイ・フェンウィックやロキシー・ミュージックでお馴染みのジョン・グスタフソン。

 後にガムラン音楽やインド音楽なども手がけるマーク・ナウシーフ、そして後にサントラを中心に多彩な活動を行うキーボード奏者コリン・タウンズ。いわゆるヘヴィ・メタルで名を成すメンバーは皆無です。大変面白いメンバーを揃えたものです。

 ここにホーン・セクションがゲスト参加するわけです。ディープ・パープルとはかなり遠いサウンドが展開しています。フュージョン系プログレッシブ・ロックのアルバムとして大変すばらしい。ギランはこの時期、こうした傾向のサウンドを欲していたのですね。

 ただし、時代はパンク全盛期。演奏技術に秀でたバンドが長尺の曲を演奏するというだけで、オールド・ウェイヴ扱いはまぬかれません。当時はまるで売れませんでしたけれども、結局は息長く聴かれることになっています。演奏技術はやはり大事ですね。

Clear Air Turbulence / Ian Gillan Band (1977 Island)



Tracks:
01. Clear Air Turbulence
02. Five Moons
03. Money Lender
04. Over The Hill
05. Goodhand Liza
06. Angel Manchenio

Personnel:
Ian Gillan : vocal
Colin Towns : keyboards, flute
Ray Fenwick : guitar, vocal
John Gustafson : bass, vocal
Mark Nauseef : drums, percussion
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Phil Kersie : tenor sax
Martin Firth : baritone sax
John Huckridge : trumpet
Derek Healey : trumpet
Malcolm Giriffiths : trombone