「悲しい時はウォーを聴こう」。これが発売当時の日本盤に書かれていた宣伝文句でした。ジャケットの左下が繰りぬかれていて、そこから見えるのは夕陽の中をうなだれて歩く人。中袋を引き出してみると夕陽の映える海岸に独りぼっちであることが分かります。

 まるでその人物と同化したように、人生の無常を感じながら、しんみりと聴く音楽。哀しみに寄り添ってくれる音楽。当時はそのように観念されていました。中袋を裏返すと、同じ写真が青く染められており、反転しているので窓から覗くのは夕闇の浜辺だけ。これも渋いです。

 前作の大成功でウォーの面々は大いなるプレッシャーを感じることになります。何てったって年間ベスト・アルバムの後の作品ですから。このアルバムが発表された時期にはまだ前作がチャート・インしていたはずです。大ヒットするというのも大変です。

 しかし、「デリヴァー・ザ・ワード」は前作ほどではないものの、立派にミリオン・セラーとなりました。シングル・ヒットも2曲飛び出し、ウォーの実力のほどを見せつけることになりました。メンバーは不満だそうですが、これはこれで充実したアルバムだと思います。

 タイトルは明らかに聖書を連想させるものです。タイトル曲はムード溢れるバラードになっていて、「悲しい時はウォーを聴こう」はもっぱらこの曲に捧げられた賛辞であると言えます。♪悲しみが君のベストフレンドだとしたら♪と歌いだされる楽曲ですから。

 中学生だった私は膝を抱えてこの曲に聴き入っていたものでした。ロニー・ジョーダンによるねっとりとしたボーカルが見事で、途中に入る怪鳥の叫びのような声まで悲しく聴こえました。エレピの音も物悲しさを高めており、心に染み入るいい曲だなあと今でも思います。

 しかし、そんな楽曲はそれだけで、シングル・カットされた「ミー・アンド・ベイビー・ブラザー」や「ジプシー・マン」を始め、他の曲は決して悲しい曲ではありません。結構、曲調がバラエティーに富んでいます。穴のない前作に比べると少し緩いといわれる所以です。

 シングル・ヒットした「ジプシー・マン」はここでは10分を超える長尺です。選手として参加した陸上競技大会の会場に行く途上、友達の家に集まってみんなでこの曲を聴いて、気分が大いに盛り上がったことを覚えています。執拗なランニング・ビートは素晴らしいの一言。

 同じくシングル・ヒットした「ミー・アンド・ベイビー・ブラザー」は、前々作にライブ・バージョンが収録されていました。最初はブギー・スタイルだったそうですが、ここではファンク・バージョンです。これも気分が高揚するビートが冴えています。

 最後の曲はリー・オスカーのハーモニカを6回重ねて、足音と指ぱっちんを加え、そこにチャールズ・ミラーのサックスを加えただけのシンプルなサウンドです。これがレイドバックしたいい感じで、ウォー・サウンドでのオスカーの役割の大きさを感じさせます。

 私にとっては初めて聴いたウォーのアルバムなので、作品としての完成度は前作には劣るものの、それを補って余りある想い出のつまった作品です。ここにも8人目がしっかりと降りてきていると感じます。悲しくなくてもウォーを聴くべきだと思います。

Deliver The Word / War (1973 United Artists)

*2015年9月17日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. H2 Overture
02. In Your Eyes
03. Gypsy Man
04. Me And Baby Brother
05. Deliver The Word
06. Southern Part Of Texas
07. Blisters

Personnel:
Howard Scott : guitar, percussion, vocal
B.B. Dickerson : bass, percussion, vocal
Lonnie Jordan : organ, piano, timbales, Arp violin, percussion, vocal
Harold Brown : drums, percussion, vocal
Papa Dee Allen : conga, bongo, percussion, vocal
Charles Miller : clarinet, alto, tenor & baritone sax, percussion, vocal
Lee Oskar : harmonica, percussion, vocal