リック・ウェイクマンの4作目のソロ・アルバムとして扱われている「リストマニア」です。この作品はケン・ラッセル監督の同名映画のサウンドトラックなのですが、ラッセル監督に頼まれたウェイクマンはノリノリで仕事をこなし、自分の公式ソロ扱いとしたものです。

 映画はタイトルが示す通り、リストマニアなる大フィーバーを巻き起こした19世紀の作曲家にして天才ピアニスト、フランツ・リストを描いたものです。もちろんラッセル監督のことですから、リストの生涯を忠実になぞったりはしていません。

 ラッセルはザ・フーのロック・オペラ「トミー」を映画化して大成功を収めた人です。本作品は「トミー」に続く劇場用映画で、同様にシュールなストーリーが展開されています。「トミー」ほどの成功は得られませんでしたが、カルト・ムービーとして根強い人気を獲得しています。

 お話はリストとリヒャルト・ワーグナーの愛憎劇となっており、リストはロジャー・ダルトリー、ワーグナーはポール・ニコラスが演じています。ニコラスは「ジーザス・クライスト・スーパースター」の主演を務めたこと等で知られるイギリスの俳優であり歌手です。

 ニコラスはよいとしても、ガテン系の代表ともいえるザ・フーのダルトリーがリストを演じるのはどうかと思いました。「トミー」にも主演していますから、その意味では妥当な人選なのかもしれませんが、ピアノを弾くには指が太そうですし、どうしても違和感がぬぐえません。

 それはさておき、サウンドトラックではクラシックに造詣の深いウェイクマンらしさが全開になっています。ここには全部で12曲が収録されていますけれども、そのうち明確にウェイクマンが作曲したとされている曲は1分強の「遁世」1曲のみです。

 残りの楽曲はリスト、一部ワーグナーによる楽曲をアレンジした楽曲です。リストの作品中で最も有名な「愛の夢」を始め、「ダンテ交響曲」、「オルフェウス」、「ハンガリー狂詩曲」などなど、さらにワーグナーでは「神々の黄昏」などが引用されています。

 演奏はウェイクマンのキーボードに加えて、「エイリアン」でも有名なイギリスのレコーディング専門のオーケストラであるナショナル・フィルハーモニック管弦楽団、そして正体不明のイングリッシュ・ロック・アンサンブルです。ロック・テイストも入っているわけです。

 半分がボーカル曲です。うち4曲はリスト役のロジャー・ダルトリーが歌います。ニコラスは「時代の炎」1曲、そしてもう一曲「地獄」は「ラーク」でお馴染みの歌手リンダ・ルイスが歌っています。映画に出ているわけでもなさそうですが、渋い人選です。

 サウンドは4作目のソロ・アルバムとされているだけに、前3作と綺麗に地続きです。実際、「ヘンリー8世の六人の妻」からの引用が出てきますし、キーボードの音色も似ています。リストやワーグナーの曲を使ってもまるで違和感がありません。

 アルバムの編集にはウェイクマンは不満があったそうで、後に完全版が発表されることになりますが、これくらいのボリュームがちょうどよい気がします。この時期のウェイクマンらしい音楽がさらりと聴けるという意味では嬉しいアルバムです。

それはそうと、リックさん、お誕生日おめでとうございます。

Lisztomania (OST) / Rick Wakeman (1975 A&M)



Tracks:
01. Rienzi / Chopsticks Fantasia
02. Love's Dream 愛の夢
03. Dante Period
04. Orpheus Song オルフェウスの歌
05. Hell 地獄
06. Hibernation 遁世
07. Excelsior Song 時代の炎
08. Master Race
09. Rape, Pillage & Clap 略奪
10. Funerailles 死者の歌
11. Free Song (Hungarian Rhapsody)
12. Peace At Last 愛の勝利

Personnel:
Rick Wakeman : keyboards
Roger Daltrey, Linda Lewis, Paul Nicholas : vocal
David Wilde : Liszt piano music
The English Rock Ensemble
John Forsythe
George Michie
The National Philharmonic Orchestra