1970年代の半ば頃、アメリカで1万人規模の会場を常時満員にできる黒人のバンドはアース・ウィンド&ファイヤーとPファンク、そしてウォーだけだと言われていました。日本ではウォーは地味ですが、アメリカでは大いに人気があったわけです。

 このアルバムは一般にウォーの最高傑作と認められている作品で、全米チャートを制覇したばかりではなく、何と1973年の年間チャートでも全米1位になったアルバムです。売り上げは300万枚に達しており、当時としては凄い数字でした。

 ウォーのソロ第三作にあたる本作品は前作から1年後に発表されました。シングルは2曲、オープニングを飾る「シスコ・キッド」とタイトル曲「世界はゲットーだ」の2曲です。どちらも全米トップ10入りし、ゴールド・ディスクを獲得しています。

 この時代、アメリカでウォー、すなわち戦争と言えばベトナム戦争です。アメリカ社会に大きな傷跡を残す戦争の最中に「ウォー」を名乗った彼らです。「自分たちの使命は兄弟愛と調和のメッセージを広めることだ」との覚悟は今から想像するよりはるかに重い。

 このアルバムではそのメッセージ性が発揮されています。「世界はゲットーだ」とはとても直截なメッセージです。覚悟の上での伝道で、そのポップさが何ともいえないジャケットとともに、シンプルながら強烈なメッセージが効果的に伝わってきます。

 魅力的なグルーヴを持った素晴らしい曲ですが、ポップとはとても言えないこの曲がシングルとしてヒットするのですから当時のアメリカは面白いです。とても奥が深いサウンドで、アルバムでは10分を超す大作です。サックスとハーモニカが泣かせます。

 一方、「シスコ・キッド」はとてもユーモラスなラテン風味の曲で、この曲によってウォーがヒスパニック系の人たちにも人気が出たと言えるそうです。ラテンの色も取り入れたウォーのサウンドはこの曲のヒットによっていよいよ完成をみたと言ってよいでしょう。

 なお、ウォーにはラテン系のメンバーはいませんが、ロスで生まれ育つとラテン・ネイティヴになるようです。面白いことにデンマーク生まれの白人リー・オスカーも「デンマークのフォークソングの方がより馴染みが薄い」と言っています。

 曲の多くはジャム・セッションの中で生まれ育っています。ジャム・セッションでは、メンバーがどんどん乗ってくると、ウォーには8人目のメンバーが登場してくるのだといいます。どう考えていももう一人いるように感じるのだそうです。これは理想的な状態を表しています。

 アルバム曲では「サントラ用に作ったけれども、ちゃんと扱われなかったからひっこめた」という曰く付きの「シティー、カントリー、シティー」がいいです。R&Bからロックン・ロールからジャズ、サルサと何でもありの構成で、まるで旅をしているように聴こえるとは言いえて妙。

 見事に最高傑作です。複雑な手触りの舌なめずりしたくなるようなサウンド展開は唯一無比です。じっと聴いていると、確かに8人目の音が聴こえてきます。恐らくそれは音楽の神様なのでしょう。私の中ではなぜかドイツのカンと重なることが多いことを付け加えておきます。

The World Is A Ghetto / War (1972 United Artists)

*2015年9月15日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The Cisco Kid
02. Where Was You At
03. City, Country, City
04. Four Cornered Room
05. The World Is A Ghetto
06. Beetles In The Bog

Personnel:
Howard Scott : guitar, percussion, vocal
B.B. Dickerson : bass, percussion, vocal
Lonnie Jordan : organ, piano, timbales, percussion, vocal
Harold Brown : drums, percussion, vocal
Papa Dee Allen : conga, bongo, percussion, vocal
Charles Miller : flute, alto, tenor & baritone sax, percussion, vocal
Lee Oskar : harmonica, percussion, vocal