かつて公式サイトにて自らを「オリジナル・アフロ・キューバン・ジャズ・ロック・ブルース・バンド」であると高らかに宣言していたウォーによる単体としてのデビュー作「ウォー・ファースト」です。原題はシンプルにセルフ・タイトルとなっています。新たな出発です。

 ただし、この時点でウォー自身がエリック・バードンと訣別する覚悟をしていたわけではありません。なるほど、バードンは前作発表後のツアーの最中に離脱してしまい、残るツアーはウォーの面々がバードン抜きで最後まで終えるという事態に立ち至っていました。

 しかし、このアルバムはバードンとのコラボと並行してソロ・キャリアを追求していこうという意図で制作された模様です。ただし、アルバム発表後にバードンが永久にバンドを離れることを決めたために、結果的にはデュアル・キャリアの道は閉ざされてしまいました。

 そんな事情ですから、新たな出発だという気負いはさほどなかったことでしょう。ウォーを結成する以前に各メンバーが演奏していた曲も下敷きにしながら、等身大のウォー・サウンドを
披露した、というアルバムになっています。余裕のデビュー作であるといえます。

 とはいえ、プロデューサーのジェリー・ゴールドスタインは本作品の制作がメンバー全員にとってとても新鮮な経験だったと語っている通り、レコード制作の経験は乏しい。すでに完成している自分たちの音楽をアルバムにしていくことはさぞや楽しかったことでしょう。

 ウォーはジャム・セッションの中から曲を生んでいく人たちです。このアルバムの各楽曲はまさにジャム・バンドのそれのような気がします。うねるようなゆったりとしたグルーヴに包まれたサウンドは、果てしないセッションを聴いているような心持にしてくれます。

 ウォーのサウンドの特徴の一つがリー・オスカーのハーモニカです。ドラム、パーカッション、ベース、キーボード、サックス、ギターにハーモニカという編成の中でハーモニカの活躍ぶりがかなり目立ちます。牧歌的な柔らかい音色が午後の日差しのように暖かいです。

 コンガやサックスの音色もとてもクリアで綺麗ですから、サウンドには細心の注意が払われていることがよく分かります。この時期のレコードのサウンドとしてはかなり高音質ではないでしょうか。こうなるとラテンっぽいグルーヴも一段と輝きます。

 とはいえ、この作品を聴いていると、まだバードンが恋しくなります。たとえばフィデル・カストロを歌った「フィデルズ・ファンタジー」などはバードン向きの曲ではないでしょうか。他にも、しばしばバードンの不在を感じる瞬間が出てきます。プロデューサーのせいかもしれませんが。

 本作品は商業的には惨敗しています。バードン抜きでは話題性にも乏しいでしょうからプロモーションにも力が入らなかったのでしょう。しかし、後に大成功を収めるウォーです。本作品も後追いでそこそこ売れていくことになります。力作には違いありませんから。

 本作品制作の経験はゴールドスタインにとっても大きかったことでしょう。ここでコツをつかんだ彼は、バードンの永久離脱で腹をくくり、すぐさまバンドを次のアルバム制作へと駆り立てます。その結果は全米を席巻する大ヒット。本作品の重要性が分かるというものです。

War / War (1971 United Artists)

*2015年9月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Sun Oh Son
02. Lonely Feelin'
03. Back Home
04. War Drums
05. Vibeka
06. Fidel's Fantasy

Personnel:
"Papa" Dee Allen : vocal, percussion
Harold Brown : drums, percussion, vocals
B.B. Dickerson : bass, vocals
Lonnie Jordan : organ, piano, percussion, vocals
Charles Miller : flute, alto sax, baritone sax, tenor sax, percussion, vocal
Lee Oskar : harmonica, vocals
Howard Scott : guitar, percussion, vocals