先生は、本作品をブロードウェイで上演することを目指して、「プレイボーイ」と並ぶ男性誌「ハスラー」に２８ページにも及ぶ長大な記事を掲載しました。しかし、当時は上演には至らず、結局、先生の死後、２００３年になって初めて上演されました。
作品ではアイク・ウィリスが扮する主人公シング・フィッシュが語りまくります。その語りはブロードウェイ・シュプレヒ・ゲーサンと呼ばれる伝統的なしゃべくり唄になっています。歌詞は俗語にまみれ、さらにそのパロディに溢れるという英語を母語としない者には超難解です。
歌詞カードを読んでも全く理解不能なのですが、さらに厳しいことに訳詞を読んでもまるで意味が分かりません。大まかな筋書きをご紹介したいところですけれども、それすら厳しい。いろいろな方々の解説を読んで初めて何とかついていけるくらいです。
先生には「２００モーテルズ」や「アンクル・ミート」などの映像作品がありますが、本作品の難解さはそれらと肩を並べます。この当時のアメリカの風俗を隅々まで知り尽くしていないと理解は厳しい。とてつもなく高いハードルを前にため息をつくばかりです。
気を取り直して、サウンドに注目してみると、これが大半はすでに発表された楽曲です。もちろん新たな仕掛けもなされているのですが、全体に語りが前面に出てきていて、楽器演奏は伴奏に徹しています。その音量自体がボーカルに比べて絞り気味です。
さほど驚きはないもののいい曲はやっぱりいいので、聴きどころもあります。「拷問は果てしなく」や「ユー・アー・ホワット・ユー・イズ」、「ノー・ナット・ナウ」などの名曲の再解釈は素晴らしい。「ノー・ナット・ナウ」は逆回しの「ウォン・トン・トン」として繰り返されてもいます。
最高の聴きどころは、私としては「ブラウン・モーゼズ」です。ジョニー・ギター・ワトソンが演じる役名をそのまま題名にした楽曲で、ワトソンの歌唱が絶品です。背筋がぞくぞくするほどかっこいいです。ワトソンは一曲だけの登場ですが、しっかり爪痕を残しています。
その他にはウィリスと並ぶザッパ・バンドの看板ボーカリスト、レイ・ホワイトが長い名前の役を演じていますし、重要な役割を果たすハリーとロンダのカップルはテリーとデイルのボジオ夫妻が演じます。スーツケースとなんちゃらする猥褻な役回りを夫婦でねえ。すごいですね。
そして、邪悪王子にナポレオン・マーフィー・ブロックが配されているところも注目です。ナポレオンは初期マザーズの重要人物です。他にハリーの子供時代にボブ・ハリス、雑草ベビーは機械の音声です。歴代ボーカリストが呼ばれているというところでしょうか。
ミュージカル作品として鑑賞するには相当な勉強が必要です。とはいえ、お話が分かったところで、いわゆる「理解」に至ることはできなさそうです。ＡＩの記号接地問題ではないですが、当代アメリカ文化を身体で知らないと難しい。ここはシンプルにサウンドを楽しみましょう。
Thing-Fish / Frank Zappa (1984 Barking Pumpkin) #041
*2013年12月21日の記事を書き直しました。
Tracks:
(disc one)
01. Prologue
02. The Mammy Nuns
03. Harry & Rhonda
04. Galoot Up-Date
05. The 'Torchum' Never Stops
06. That Evil Prince
07. You Are What You Is
08. Mudd Club
09. The Meek Shall Inherit Nothing
10. Clowns On Velvet
11. Harry-As-A-Boy
12. He's So Gay
13. The Massive Improve'lence
14. Artificial Rhonda
(disc two)
01. The Crab-Grass Baby
02. The White Boy Troubles
03. No Not Now
04. Briefcase Boogie
05. Brown Moses
06. Wistful Wit A Fist-Full
07. Drop Dead
08. Won Ton On
Personnel:
Ike Willis : Thing Fish
Terry Bozzio : Harry
Dale Bozzio : Rhonda
Napoleon Murphy Brock : Evil Prince
Bob Harris : Harry-as-a-boy
Johnny 'Guitar' Watson : Brown Moses
Ray White : Owl-Gonkwin-Jane Cowhoon