話には聞いていたスターリンと非常階段のライヴ音源です。ライヴが行われたのは1983年9月17日で、場所はその当時の過激なライヴをすべて受け止めていた京大西部講堂です。この当時はまだ大学に自治の気風が色濃く残っていました。

 もともとは非常階段結成30周年記念のCD30枚組ボックスの一枚としてお目見えしたのが最初です。それでも2009年のことですから、20年以上が経過していました。その後、スター階段として単体でもリリースされることになりました。快挙です。

 ライヴが行われた当時、スターリンと非常階段は、女子高生雑誌「ポップティーン」に東西を代表する変態バンドとして名前があがったことがあるように、音楽メディアのみならず、その過激なパフォーマンスで一般メディアを賑わせていた存在でした。

 当然、日本にもあったパンク/ニュー・ウェイブ・シーンでは人気もあった両者が共演したということで大いに話題にもなり、ライヴの模様もさまざまな記事になっておりました。社会人となっていた私はその楽しそうな様子に何とも複雑な思いを抱いたものです。

 というのも、この当時、スターリンはメンバーが欠けて実質バンド休止状態でしたし、非常階段も「バンド自体がライブを精力的に行うムードではなくなっていた」状況で、パンク・インディーズ・シーン自体が一区切りついた停滞期に入っていたのです。

 正直、「今さら」という思いはあったのですが、その後のシーンの活況や両者の活躍ぶりをみるにつけ、私が間違っていたと反省することしきりです。実際、両バンドにとっても、インディーズ・シーンにとっても画期となった出来事になったのでした。

 両者の合体バンド構想は1981年の対バン時に遡ります。それから2年、非常階段のライヴのオファーを受けたJOJO広重が遠藤ミチロウに話を持ち掛けて企画が始まります。その形はスターリンが曲を演奏し、「非常階段がノイズ+パフォーマンスとして登場する」もの。

 スターリンは当時ミチロウとベースのシンタロウの2人になっていましたが、ここでは初期メンバーの乾純と、スターリン以前のバンド自閉体のテルヤが加わった4人組となります。非常階段はJOJO、岡俊行、林直人、Woo、ユカの5人。計9人のステージです。

 ライヴは、「臓物、牛乳、ペンキ、ミミズの雨アラレ」、客席からも「消火器、タタミ、陶器のウツワ」などが飛び交い、ユカは「放尿、絶叫の揚句、血ノリの中であえぐ」、「ユカでドロドロの海にまみれているオカとJOJO」、「スコップを振り回して客を威嚇するハヤシ」という状況。

 西部講堂の動員記録を塗り替える千人以上の観客とバンドは一体となってこのカオス状況を堪能したといいます。まだシーンにはエネルギーが充満していたのです。本作品はこのエネルギーを真空パックしています。録音はいいとはいえませんが、むしろそこがいい。

 スターリンの激しい曲演奏に非常階段勢のノイズが絡み合い、そこにパフォーマンスの気配が色濃く漂う。観客が参加している様子もそこはかとなく感じられます。もこもこした録音の向こう側にうごめく得体のしれないエネルギーに胸のつかえがとれるようです。

Sta-Kaidan 1983.9.17 Live / Sta-Kaidan (2014 アルケミー)



Tracks:
01. イントロダクション
02. アーティスト/マリアンヌ
03. 革命的日常
04. アメーバー
05. 飢餓々々帰郷
06. シンタロウα
07. 電動コケシ
08. 純情
09. メシ喰わせろ

Personnel:
JOJO広重 : guitar
岡俊行 : drums
林直人 : guitar
Woo : bass
ユカ : vocal
遠藤ミチロウ : vocal
杉山晋太郎 : bass
テルヤ : guitar
乾純 : drums