いきなり「スピル・ザ・ワイン」の大ヒットを飛ばしたエリック・バードン&ウォーは、精力的に米国やヨーロッパをツアーして回りました。一方で、デビュー・アルバムから8か月にして、セカンド・アルバムも発表しています。しかも2枚組です。創作意欲にあふれています。

 なお、1970年9月16日にロンドンのロニー・スコッツで行われたライヴでは、ジミ・ヘンドリクスが飛び入りしたことで伝説になっています。ヘンドリクスは翌々日に亡くなってしまいましたから、これがヘンドリクスにとっては最後のライヴになってしまいました。

 閑話休題。セカンド・アルバムのタイトルは英国のジャーナリスト、エドモンド・モレルの「黒人の責務」にちなんでいます。これはコンゴを植民地支配していたベルギーの残虐行為を告発するものでした。重苦しいタイトルですが、いかにも愛と平和のウォーらしいです。

 ただし、邦題は「エリック・バードンの黒い世界!!」でした。日本でもある程度の知名度があったバードンが黒人中心のバンドを率いているという事実が新鮮だったことを示しています。まだまだ人種間の壁が高かった時代でもありました。今でも差別は深刻ですが。

 本作品では前作よりもさらにジャム・バンドっぽい演奏が続きます。前作はいかにもバードンのバンドという印象でしたけれども、本作ではウォーの面々の演奏が自由度を増し、バードンのボーカルなしでも十分にバンドのサウンドとして自立しています。

 もちろんバードンの活躍は刻印されています。とりわけカバー曲を中心としたメドレー二曲でのバードンの存在感は大きいです。ローリング・ストーンズの「黒く塗れ」とムーディー・ブルースの「サテンの夜」のカバーです。これらはバードンなしには選曲されなかったことでしょう。

 アルバムにはバードンの土性骨のすわったボーカルを中心に展開する曲と、ウォーらしいラテン・ファンクを中心とした曲が混在しています。さらに、当時の世相を反映してサイケデリックの香りも強い。かなり雑食性の強いサウンドであると思います。

 彼らのライヴは高い評判を獲得していたそうですが、このアルバムを聴いただけでもそれが嘘ではないことがよく分かります。ずっと聴いていたいと思わせるグルーヴを生み出す自由度の高い演奏が彼らの真骨頂です。スタジオからはみ出しそうな演奏です。

 本作品は前作ほどは売れませんでしたけれども、全米トップ40には余裕で入っています。ライヴを目撃した英国では前作よりも成績が良かったようです。ただ、順風満帆といきたいところですが、そうはいきませんでした。本作発表後のツアーでバードンが倒れてしまうのです。

 体調のすぐれないバードンはツアー途中で離脱してしまい、残されたメンバーだけでツアーは続けられました。結局、バードンが戻ることはなく、バードン抜きのウォーとしての活動が始まるのでした。これがむしろ良かったのだということを後知恵が教えてくれます。

 本作品を聴いていると、ウォーの演奏とバードンのボーカルの相性は悪くはないとは思うのですが、何やらバードンがウォーの重荷になってきているような気がしないではありません。バードンのボーカルからはみ出しそうです。この気配が本作の魅力でもあります。

The Black-Man's Burdon / Eric Burdon & War (1970 MGM)



Tracks:
01. Paint It Black (Medley) 黒く塗れ
02. Spirit
03. Beautiful New Born Child
04. Nights In White Satin サテンの夜
05. The Bird And The Squirrel
06. Nuts, Seeds And Life
07. Out Of Nowhere
08. Nights In White Satin
09. Sun / Moon
10. Pretty Colors
11. Gun
12. Jimbo
13. Bare Back Ride
14. Home Cookin'
15. They Can't Take Away Our Music

Personnel:
Eric Burdon : vocal
Howard Scott : guitar, vocal
Lonnie Jordan : organ, piano, vocal
B.B. Dickerson : bass, vocal
Lee Oskar : harmonica, vocal
Charles Miller : sax, flute
Harold brown : drums
Dee Allen : congas, percussion, vocal
Sharon Scott and the Beautiful New Born Children of Southern California