ジャパノイズの「代名詞的存在であるMerzbowや非常階段と並び立つ存在として世界中のノイズフリークからのリスペクトを一身に浴びる山崎マゾのソロプロジェクト」がマゾンナです。本作品はマゾンナが1993年にアルケミー・レコードに残したアルバムです。

 アルバムの邦題は簡素に「血まみれのアンヌ」ですが、フランス語のタイトルもつけられており、そちらは訳すと、「血まみれのアンヌ嬢、若しくは、我等がニンフォマニアが後光に包まれる」となります。解像度の低いイラストが添えられていて背筋が凍ります。

 マゾンナこと山崎マゾは1987年より自宅録音を開始して、自主レーベル等から作品を発表するようになりました。その後、1991年より本格的にライヴ活動を展開し、「ジャンピング・ノイズ・パフォーマー」、「ノイズ界のロック・ゴッド」と高い評価を得ていきます。

 本作品はキング・オブ・ノイズ、非常階段のJOJO広重が主宰するノイズ音楽の殿堂ともいえるアルケミー・レコードのグッド・アルケミー・シリーズからの一枚です。JOJOのライナーノーツに、ここに至るいきさつが記されており、興味をそそります。

 それによれば、JOJOは1990年時点ではマゾンナのノイズは「自分の内側にむけられた、悪く言えばひとりよがり的なサウンド」に聴こえたとしてシリーズ参加を見送っています。そうして、「『とにかくライブ演奏を』薦めた」のだそうです。山崎は見事に期待に応えました。

 ノイズ虎の穴ですね。しかし、このJOJOの指摘はノイズ音楽を聴くものとして胸に刻む必要があります。一見、同じような表情にみえるノイズ音楽の中から、何を聴きだすのか。ひとりよがりのノイズと表現活動としてのノイズ。聴き手も試されています。

 本作品は、タイトルがつけられていないボーナス・トラックが30曲続いた後にアルバム・タイトルと同名の楽曲が1曲だけ収録されています。ボートラを除くと、アルバム全体はわずか4秒しかありません。購入したのはCD再発だけに、すっかり騙されてしまいました。

 オリジナル盤からこの構成なのですね。まあご愛敬です。ボートラとされている楽曲も多くは1分前後です。後半になるとギターなどを使った曲らしい曲も出てくるため、3分以上ある曲もあります。高密度にエネルギーを凝縮した短い曲が連打されて圧倒されます。

 その極めつけがタイトル曲、たった4秒間の完璧なノイズです。ここに至る楽曲も含めて、まだ若い山崎の超高速ノイズは、パンクに求めても得られなかったカタルシスを与えてくれます。とにかくノイズの中でもとりわけ密度が濃いサウンドです。

 サウンドは、山崎のボイス・パフォーマンスと「最小限の機材を使用したノイジング」で構成されます。後半に柔らかなギターと思われるサウンドが出てきますけれども、それも束の間、またハイエナジーなノイズの嵐と激烈なデス・ボイスに戻ります。圧倒的な迫力です。

 後の作品に比べるとやはり若い。この若さがノイズに疾走感を与えています。山崎は本作品をきっかけに海外での評価が高まり、アメリカを皮切りに世界各地で公演を行うことになります。ジャパノイズなる言葉とともにマゾンナの名は世界にとどろくのでした。

Mademoiselle Anne Sanglante ou Notre Nymphomanie Auréolé / Masonna (1993 Alchemy)



Tracks:
01-30. Bonus Tracks
31. Mademoiselle Anne Sanglante ou Notre Nymphomanie Auréolé

Personnel:
山崎マゾ