「シェルブールの雨傘」は1964年に公開されたフランス映画です。監督はジャック・ドゥミ、音楽はミシェル・ルグランで、ミュージカル映画の不朽の名作として、今なお高い人気を誇る傑作です。主演のカトリーヌ・ドヌーヴの出世作としても知られています。

 本作品はその「シェルブールの雨傘」のオリジナル・サウンドトラックです。このサントラ、2枚組のボリュームに映画が丸ごと収録されています。まさにサントラの中のサントラ、サウンドトラック多しといえども、ここまで徹底したサントラはそうそうあるものではありません。

 ただし、2枚組で発表されていたのは公開当初のみで、やがてダイジェスト盤が生まれると、そちらの方がスタンダードになりました。なお、最初にダイジェスト盤を独自編集にて発表したのは日本なのだそうです。映画評論家の野口久光氏がかかわっています。

 この映画は台詞はすべて歌になっているという完全なミュージカル映画です。歌詞は監督のドゥミが書き、そこにルグランが曲をつけていきます。ドゥミの意図はミュージカルでありながら「日常生活に近く、現実的な次元のものにしたい」というものでした。

 そのため、ルグランは「話し言葉にできるだけ近いテンポで歌い、日常の言葉と同じような緩急のあるものを考え」、「最終的に、映画は話し言葉と歌の境界線上にあって、この二極の間でバランスを保ったものになりました」。確かに台詞なのか歌なのか、境界線にあります。

 こういう形ですから、映像を撮ってから音楽をつけるのではなく、先に完全なサウンドトラックが完成しています。そうなると、役を演じる俳優さんは歌に合わせて演技をすることになります。歌はすべて吹き替えで、俳優さんがリップシンクしているわけです。

 若き日のドヌーヴの声は一切聴こえません。ドヌーヴ演じるジュヌヴィエーヌを歌うのはダニエル・リカーリ、今でもTVCMによく使われる「ふたりの天使」♪だばだばだー♪で有名なスキャットの女王です。「シェルブールの雨傘」が出世作となりました。

 ルグランの姉でスウィングル・シンガーズのソプラノを務めるクリスチャンヌがドヌーヴのお母さんです。ミシェル自身もちょい役で歌っており、♪オペラは嫌いだ、映画の方がいい、歌ばっかりで面白くないや♪と、挑戦的な歌詞を割り振られています。

 この映画からは別名「アイ・ウィル・ウェイト・フォー・ユー」、邦題は「シェルブールの雨傘」がスタンダードとなりました。フランスの現代曲としては、ラヴェルの「ボレロ」に次いで、世界中で最も多く演奏された曲といわれるほど、世界中にあふれています。

 ルグランはこの時はまだ32歳でデビューして日は浅かったわけですが、本作品で一躍世界的な名声を手に入れました。不朽のメロディーをもつ主題曲以外にも、この時代のジャズを背骨とした見事な楽曲が本作品を埋め尽くしていますから、これも当然のことでしょう。

 この映画、地の台詞がないという意味では完全なミュージカルなのですが、実は一切踊りません。歌と踊りに慣れた身からすれば違和感がありますが、その分、ドヌーヴの衣装に象徴される、小道具の隅々にまで溢れるお洒落感覚が際立つように感じます。さすが名画です。

Les Parapluies de Cherbourg / Michel Legrand (1964 Philips)



Tracks:
(disc one)
第1部 出発
01. クレジット(インストゥルメンタル)
02. ガレージのシーン
03. 店の前で
04. 伯母エリーズの家で
05. 通りで
06. ダンスホールで
07. 桟橋で
08. 傘屋の中で
09. デュブール宝石商の店で
10. 店の中で
11. ガレージの前で
12. エリーズの家で
13. アパートで
14. エリーズへの別れ
15. 駅(ギイの出発)
(disc two)
第2部 不在
01. 店の中で
02. ディナー
03. カサールのプロポーズ
04. ギイの手紙
05. カーニヴァル
06. 結婚式(インストゥルメンタル)
第3部 帰還
07. ギイの帰還(インストゥルメンタル)
08. エリーズの家で
09. ガレージ(言い争い)
10. カフェのギイ
11. マドロスダンスホール
12. ギイとマドレーヌの二重唱
13. カフェのテラスで
14. ガソリンスタンドで
15. フィナーレ

Personnel:
Danielle Licari
José Bartel
Christiane Legrand
Georges Blanès
Claudine Meunier
Claire Leclerc
Michel Legrand
Jacques Demy