タンジェリン・ドリームの4作目にしてオール・レーベルへの最後の作品となった「アテム」です。ホラー映画の「チャイルド・プレイ」を思わせる不気味なことこの上ないジャケットに包まれて発売されました。しかし、このジャケット、実はほのぼのジャケットなのです。

 ジャケットをデザインしたのはリーダーのエドガー・フローゼ、写真を撮ったのはその奥さんのモニク、写っている子どもは二人の息子さんであるジェローム君です。何とも親ばかなジャケットですね。なお、ジェローム君は後にタンジェリン・ドリーム入りすることになります。

 前作からメンバー交代はありません。しかし、前作が、やまなし落ちなしの徹底的なドローン作品だったのに対し、今回はパーカッションもしっかりと入っていますし、のちのタンジェリンを特徴づける反復ビートの萌芽も見られるなど、ずいぶんとカラフルになりました。

 本作品の当初の邦題は「荒涼たる明るさのなかで」でした。これまでのおどろおどろしい邦題に比べると、かなり明るくなりました。世間一般にもタンジェリン・ドリームのサウンドが明るくなったと受け止められていることの証左だと思います。

 前作が2枚組の超大作だったのに対し、本作品はすっきりとコンパクトにまとめられており、シングル・アルバムとしてはこれまでで最も多い4曲入りとなっています。その点でもかなり聴きやすくなっています。そしてこの作品は世界進出のきっかけとなったのでした。

 この作品は英国ロック界の仕掛け人であるジョン・ピールの眼にとまりました。ピールによって輸入レコード大賞に選ばれた本作品は、英国でちょっとしたヒットになりました。そこに眼をつけたのがリチャード・ブランソンで、タンジェリンはヴァージンと契約することになるのでした。

 それだけに本作品はオール時代の最高傑作の呼び声が高いです。私も彼らの初期作品の中では唯一LPを所有しており、大そうよく聴いたものです。それだけ日本でも人気があったといえると思います。おどろおどろしさと明るさがほどよくバランスしていますから。

 日本と言えば、フローゼはこの頃、「鼓童」に惹かれていました。「彼らの低くて深いサウンドに感動してね。彼らのレコードを集めて、ドラム(太鼓)のパートを切り貼りして自分なりのシークエンスを作ったことがあったよ」。それが本作と前作に使われているのだそうです。

 前作は言われても分かりませんが、本作品では明らかです。そうだったんですか、鼓童のサンプリングでしたか。この太鼓は見事な効果を発揮していて、表題曲「アテム」をびしっと締めてくれています。そんなところも含めて自由度が高いサウンドです。

 この頃のタンジェリン・ドリームは、電子音楽の黎明期ということもあり、みんなでいろいろと工夫しながら、面白いと思うものには何でも手を出しています。まさに道なき道を切り開いていたわけですから、その若いエネルギーたるや凄まじいものがあります。

 今となっては、ニュー・エイジに分類されることも多いタンジェリンですが、電子音楽の礎を築いたプログレッシブな姿勢はニュー・エイジとは対極にあるともいえます。ジョン・ピールがほれ込んだのも分かります。オール時代を総括する立派なアルバムだと思います。

Atem / Tangerine Dream (1973 Ohr)

*2013年10月7日の記事を書き直しました。

参照:エドガー・フローゼ・インタビュー(CDジャーナル2009/10/1) 



Tracks:
01. Atem
02. Fauni Gena
03. Circulation Of Events
04. Wahn

Personnel:
Edgar Froese : guitar, mellotron, organ, voice
Chris Franke : VCS3 synthi, percussion, organ, voice
Peter Baumann : organ, VCS3 synthi, piano