ケンタウロス座のアルファ星は全天で21しかない1等星の一つです。それに太陽系から4.4光年しか離れておらず、太陽に次いで地球に最も近い恒星として知られています。身近な星ですから、SFやらゲームやら何やらで結構その名前を目にすることがあります。

 タンジェリン・ドリームの二作目はそのアルファ・ケンタウリを題名にもってきました。邦題は「ケンタウロス座のアルファ星」です。その名の通り、宇宙をテーマにした作品になっているものと思われます。リーダーのエドガー・フローゼ自身が宇宙音楽だと言っています。

 本作ではフローゼ以外のメンバーは総入れ替えになりました。新たに加わったのは、ロック・インスト・バンドのアジテーション・フリーからクリストファー・フランケ、そしてメンバーとしての参加はこれだけとなるスティーヴ・シュローダーです。他にゲストが二人入ります。

 かなり電子音楽に近くなりましたけれども、まだ主役はフルートだったり、ドラムスだったりしています。シンセサイザーも登場しましたけれども、まだまだ存在を主張するところまでは来ていません。あいかわらずギターも大いに活躍しています。

 要するに、前作と使っている音はさほど違わないわけですけれども、その表情は全く違います。やはり個性派の二人が抜けましたから、フローゼの趣味が全開になっています。より音楽的になりましたし、構成もよりドラマチックになってきました。

 後のシンセサイザー・サウンドとは異なって、まだまだいろんな楽器が渾然一体となっていますけれども、のちの彼らの音楽要素はここにほとんどが揃っているとも言えます。その意味では、こちらが真のデビュー作品だと言えるのではないでしょうか。

 私の手持ちのCDはアルカンジェロから復刻された紙ジャケCDです。これには何と初CD化となる同時期のシングル「ウルティマ・チュール」がおまけについています。これはサイケなギターが全開になっているオーソドックスなハード・ロックな曲です。

 言われないとタンジェリンの音だとは分かりません。これはこれで超貴重ですし、タンジェリンの作品群の中に置くと異色中の異色作ですから、ありがたく拝聴いたしました。しかし、正解でした。彼らはそっち方面に進まなくて本当によかったと思います。

 勢いがあってよい曲ですけれども、とんでもないというほどではありません。エドガー・フローゼがジミヘンにはなるのは無理なことでしょう。戦後さほど時間の経過していない時期のドイツに、アメリカンなロックはやはり似合わない。本人も居心地が良いわけではないでしょう。

 本編の方は、宇宙を感じる作品ではありますが、微妙にこじんまりしています。さすがは太陽系に一番近い恒星です。何を言っているかといいますと、前作に比べると、比較的耳になじみやすい、メロディーやリズムも見え隠れする作品であるということです。

 ピンク・フロイド的な構成の妙、ロマン派的なフルートの響き、わりと生なサウンドのフランケのドラムなど聴きどころは多いです。音を極限まで絞ろうとはしていない分、耳にやさしいのでしょう。浪漫を感じることのできる作品です。AIが描いたようなジャケットも美しいです。

Alpha Centauri / Tangerine Dream (1971 Ohr)

*2013年10月4日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Sunrise In The Third System
02. Fly And Collision Of Comas Sola
03. Alpha Centauri
(bonus disc)
01. Ultima Thule, Part 1
02. Ultima Thule, Part 2

Personnel:
Edgar Froese : guitar, bass, organ, voice
Chris Franke : synthesizer, percussion, flute, pianoharp
Steve Schroyder : organ, voice
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Uda Dennebourg : flute
Roland Paulick : synthesizer