令和のじじばば殺しはあいみょんと藤井風に決定しました。あいみょんは昭和歌謡を下地に新たな音楽を創造しているところがじじばばのハートを射貫くわけですが、じじばばとは相性の悪いヒップホップ系ともいえる藤井風がなぜじじばば殺しなのか。

 答えはこの「ヘルプ・エヴァー・ハート・カヴァー」にあります。本作品はデビュー・アルバムである「ヘルプ・エヴァー・ハート・ネヴァー」が発表された時におまけ的な位置づけで同包されていた洋楽のカバー集です。後にそれぞれが単体で発売されることになりました。

 この選曲が渋い。ここに藤井のじじばば殺しポイントが凝縮されています。エド・シーランやアリアナ・グランデ、テイラー・スウィフトの当世大人気歌手の曲も収録されているのですが、大半を占めているのが藤井が生まれる前の洋楽ヒット曲です。

 一番古い曲が1946年に遡ることができるジャズのスタンダード・ナンバー「タイム・アフター・タイム」です。続いて1964年の「悲しき願い」。アニマルズや日本では尾藤イサオがカバーした悲しいけれども元気な曲です。こちらはロック系ということになりますか。

 バート・バカラックの曲は同名映画の主題歌「アルフィー」、カーペンターズのバージョンが最も知られている「遥かなる影」の二曲が選ばれています。前者が1966年、後者が1970年です。藤井とバカラックの相性は抜群によいということが分かります。

 スタンダードなポップス系ではフランキー・ヴァリの1974年の全米一位ヒット曲の「瞳の面影」が選ばれています。日本でも当時沢田研二や西城秀樹がカバーしていました。本作品は全編ピアノの弾き語りですから、こうしたスタンダードなポップスが似合います。

 さすが藤井風と唸らせたのはオージェイズの「裏切り者のテーマ」です。1972年の大ヒット曲で、ソウルの世界の代表曲ですが、この選曲は渋い。そして、またそれを歌いこなす藤井がかっこいいです。ピアノの弾き語りなのにソウル感覚が溢れてきます。

 ブラック・ミュージック系では、説明不要の大ヒット曲マイケル・ジャクソンの「今夜はビート・イット」も選ばれています。じじばばには信じられないことですが、1980年のこの曲も藤井が生まれるはるか昔の名曲ということになるのでした。ありがとう、藤井さん。

 ここからはぐっと新しくなって、エイミー・ワインハウスの「ストロンガー・ザン・ミー」、エド・シーランの「シェイプ・オブ・ユー」、アリアナ・グランデの「ビー・オーライト」、テイラー・スウィフトの「シェイク・イット・オフ」と続きます。もう完全にタイムレスな選曲です。

 もともと藤井は小学校の頃からさまざまな楽曲をカバーしてはユーチューブに投稿しており、メジャー・デビューもそうした動画がきっかけとなっています。その意味では藤井にとって原点ともいえる活動をちょっとファン・サービスとしてCDにして届けたといったことなのでしょう。

 ピアノの弾き語りというシンプルこの上ない形でありながら、スタンダードからロック、ソウル、最新のヒットまでを、実に幅広い表現力でカバーしていて素晴らしいです。それに何よりもじじばばに優しい。新世代の音楽に旧世代を誘うとは大したアーティストです。

Help Ever Hurt Cover / Fujii Kaze (2020 Hehn)



Tracks:
01. Close To You 遥かなる影
02. Shape Of You
03. Back Stabbers 裏切り者のテーマ
04. Alfie
05. Be Alright
06. Beat It 今夜はビート・イット
07. Don't Let Me Be Misunderstood 悲しき願い
08. My Eyes Adored You 瞳の面影
09. Shake It Off
10. Stronger Than Me
11. Time After Time

Personnel:
藤井風 : vocal, piano