前作からわずか2か月にして発表されたフランク・ザッパ先生の「奴らか俺たちか」はスカッとした大傑作です。しばらくオーケストラ系が続いていたので、こうしたロック作品は随分久しぶりな感じがするものです。そして、見事に期待に違わぬ大傑作が届けられました。

 パトリシアが不気味な顔であらぬ方向を見ているジャケットはとても禍々しく、アルバムの充実ぶりを示しています。いいジャケットです。こういうセンスが好きなんです、私。綺麗でもなければ汚くもない。だけれども何が何だか訳が分からない。

 この作品はザッパ・バンドが1981年から82年にかけて行ったツアーの音源などを元にスタジオで制作されたものです。この時のバンドには、これから先を支えていくバンド・メンバーが多く含まれています。超絶ギタリストのスティーヴ・ヴァイが加わっている点も注目です。

 さらにジョージ・デュークなど懐かしい名前が結構ならんでいるのですが、これは昔の音源を使っているためにクレジットされているものです。ただし、ジョニー・ギター・ワトソンがいなたいロッキン・ブルース「イン・フランス」でリード・ボーカルをとっていて、これは新しそうです。

 昔の音源は自由自在に使われています。「ヤ・ホズナ」では、名曲「ソファ」と「ロンリー・リトル・ガール」、娘ムーンの大ヒット「ヴァリー・ガール」のボーカルが逆回しで使われていますし、「夢の惑星」は、70年代のデュークとパトリック・オハーンのテイクが元になっています。

 そんな具合に、この作品は独特のカラーがあるというよりも、よりストレートに先生の持ち味を凝縮した集大成的な娯楽超大作になっています。一曲一曲が素晴らしいだけでなく、その並びがまた極めて自然。LPだと2枚組でしたが、一気に最後まで聴かせてくれます。

 注目の楽曲は、「スティーヴィーズ・スパンキング」。ヴァイの変態ぶりを歌った曲ですが、ギター・ソロがかっこいい。ここではヴァイに加えて、先生の息子ドウィーゼルがソロをとっています。もっと凄いヴァージョンが後に出てくるのですが、これでも十分かっこいいです。

 そして「ビー・イン・マイ・ビデオ」。これはMTV時代を題材にした曲で、一般にデヴィッド・ボウイのPVを揶揄したものと捉えられています。ベースとドラムによるベーシック・トラックにボーカル・ハーモニーだけで存分に分厚い音を聴かせるナイスな曲です。

 また、オールマンズの名曲「ウィッピング・ポスト」も登場します。ライブ会場でリクエストされたのに曲を知らなくて演奏できなかったリベンジを企図したそうです。バンド一丸となって怒涛のごとく攻めてくる音圧の高い演奏です。オールマンズとは全く違うものとして素晴らしい。

 冒頭のドゥー・ワップを始め、全曲紹介したいくらいの充実ぶりです。そして、全体にとても猥雑です。ぬめぬめした感触があって、その味わいが私の心にぐさりと突き刺さりました。実は私が初めて買った先生のアルバムがこれでした。幸運だったといえます。

 中村とうよう氏は、本作品を「これまででいちばん贅肉のない、それだけ彼の核心がストレイトにムキ出しになった、そしてまたそれだけ良い意味でポップになったアルバム」と評しています。ポップの意味合いを深く掘り下げていった先に出会う作品なんではないかと思います。

Them or Us / Frank Zappa (1984 Barking Pumpkin) #040

*2013年11月30日の記事を書き直しました。

参照:ミュージック・マガジン1985年2月号



Tracks:
01. The Closer You Are
02. In France
03. Ya Hozna
04. Sharleena
05. Sinister Footwear II 不吉な靴下II
06. Truck Driver Divorce トラック・ドライヴァーの離婚
07. Stevie's Spanking
08. Baby, Take Your Teeth Out
09. Marqueson's Chicken
10. Planet Of My Dreams 夢の惑星
11. Be In My Video
12. Them Or Us
13. Frogs With Dirty Little Lips
14. Whippin' Post

Personnel:
Frank Zappa : vocal, guitar
Johnny 'Guitar' Watson : vocal
Moon Zappa : vocal
George Duke : vocal, piano
Ray White : vocal, guitar
Ike Willis : vocal
Bobby Martin : vocal, harmonica, keyboards, sax
Napoleon Murphy Brock : vocal
Bob Harris : vocal
Steve Vai : guitar
Dweezil Zappa : guitar
Tommy Mars : keyboards
Brad Cole : piano
Arthur Barrow : bass
Scott Thunes : bass, mini-moog
Patrick O'Hearn : bass
Ed Mann : percussion
Chad Wackerman : drums
Roy Estrada : chorus
Thana Harris : chorus