ハード・ロックでシャウトするとスカッとします。私は若い頃、このアルバムからシングル・ヒットした「アイ・サレンダー」をカラオケでよく歌ったものです。お酒が入って、みんなが他人の歌を聴かなくなった頃に、シャウトするんです。大変気持ち良かったです。

 久しぶりに聴いて歌ってしまいましたが、さすがに声がでない。それでも結構。私の代わりに、このアルバムでレインボーにデビューしたイケメンのボーカリスト、ジョー・リン・ターナーが歌ってくれます。伸びやかな歌声が素晴らしい、胸がすかっとする名曲です。

 レインボーの5作目のスタジオ・アルバム「アイ・サレンダー」です。まずは恒例のメンバー・チェックです。ドラムのコージー・パウエルとボーカルのグラハム・ボネットが脱退しました。後任は若いボビー・ロンディネリとファンダンゴというバンドにいたターナーです。

 ハード・ロックの帝王ディープ・パープルを継いだレインボーですけれども、前作からかなりポップな路線に舵を切りました。ブラックモアを崇めていたファンにはかなり不評だったようですけれども、私はこのハード・ロックの人のやるポップというのがとても好きです。

 アルバムの原題は「治療不可」ですけれども、邦題には冒頭の大ヒット曲「アイ・サレンダー」が選ばれました。「シンス・ユー・ビーン・ゴーン」の余勢をかって、同じラス・バラードの手になる楽曲は全英3位となるレインボー最大のヒットになりましたから仕方ありません。

 しかし、英国や日本での人気に比べ、アメリカの反応が今一つだったところがどうにも解せません。ブラックモアの弾くリフもソロもかっこいいですし、ボーカルは先にも申し上げた通り、とにかく素晴らしい。キャッチーなメロディーをもつ名曲なのに何故でしょう。

 一方、アルバム全体は結構バラエティーに富んでいます。これだけポップなのに、不思議なことにブラックモアのギターが一番目立ったアルバムではないかと思います。縦横無尽。インスト曲「メイビー・ネクスト・タイム」では、泣きのギターが冴えわたっています。

 そして、ディープ・パープル的なクラシカルな要素をもった様式美ロックも健在で、「スポットライト・キッド」はその典型です。この曲と、最後に収録されている原題のタイトル曲「治療不可」が対をなしているように思えます。端正なギターとキーボードが映えています。

 前作から加入しているキーボードのドン・エイリーの貢献が大きいと言われる「治療不可」は何とベートーヴェンの第九をアレンジした楽曲です。斬新だと言われることもあるようですけれども、日本では寺内タケシが昔からやっていました。世界の寺内恐るべし。

 伊藤正則氏のLP発売当時の解説には、「ポップな仕上がりに肩を落としているファンが万が一いたならば」、ライブでは「むしろリッチーは今まで以上の神がかったギター・プレイを披露してくれるだろう」から心配するなと書いてあります。自分に言い聞かせているようです。

 ファンの方は戸惑ったんでしょうね。しかし、繰り返しますが、これまで以上にブラックモアのギターが目立っているんです。そこのところが面白いです。自ら作り出してきた音楽と、少し離れてみることで、曲の組み立てとか様式美から解放されて自由になったかのようです。

Difficult to Cure / Rainbow (1981 Polydor)

*2014年6月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. I Surrender
02. Spotlight Kid
03. No Release
04. Magic
05. Maybe Next Time
06. Can't Happen Here
07. Freedom Fighter
08. Difficult To Cure 治療不可

Personnel:
Ritchie Blackmore : guitar
Don Airey : keyboards
Roger Glover : bass
Bob Rondinelli : drums
Joe Lynn Turner : vocal