ジャケットには意識を失っていると思われる女性の口からエクトプラズムが放出されています。モノクロの写真が彼岸と此岸の境目を曖昧にしてしまっているようで、恐ろしいことこの上ありません。アルバムの中身もジャケットに負けず劣らず、背筋を凍らせます。

 「実録!世界オカルト音楽大全」はベルギーのサブ・ロザ・レーベルから発表されました。もともとはレコードのみでの発売でしたが、日本ではCDの方が売りやすいからと、ディスク・ユニオンが全量買い取りまで申し入れてCD化を実現させました。

 なお、同時発売の第二集とこの第一集をまとめてディスク・ユニオンで購入すると、邪気退散の御守りがついてくるという念の入れようです。確かに御守りを入れて少しでも霊障のリスクを抑えておかないと、PL法の対象になってしまいかねません。

 収録されているのはいわゆる音楽ではありません。ここには「世界各国の交霊会やポルターガイストなど心霊現象の実況録音」が収められています。一番古いものはシャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルが心霊学を講義している音声で、1930年に遡ります。

 内容はともかく、コナン・ドイルの肉声を聴くことができるとは嬉しいことです。さらに本作品にはオスカー・ワイルドの声も収録されています。ただし、こちらは有名な霊媒レスリー・フリントを通してワイルドが語っているものです。本人の肉声と信じてしまいそうな迫真ぶりです。

 作品の前半は概ね霊媒師による降霊の模様です。後半になると、実際に心霊現象が報告された現場での実況録音がてんこ盛りになっており、エクソシストによる悪魔祓いの模様まで収録されています。意外と録音日時が新しいのには驚きました。

 最新は1995年の録音です。英国の心霊現象研究協会が録音したワイングラスの破裂音で、BBCの分析によって「パラノーマル」、すなわち超常現象であると認定されています。わざと二回収録されていますが、それでもわずか19秒の貴重な超常体験です。

 最も恐ろしい音声は英国の少女ジャネット・ホジソンのものです。映画化もされたエンフィールド事件の音声で、ここでは11歳のジャネットが野太い悪魔の声で恐ろしい言葉を発しています。まるで映画「エクソシスト」なのですが、こちらが後発、影響もあったのでしょう。

 そのエンフィールド事件が1978年です。この頃には家庭用の録画機器もある程度普及していましたが、心霊現象はやはり音声だけの方が生々しい気がします。お馴染みのラップ音を始め、ポルターガイストも音声だけの方がよほど恐ろしいです。

 「アンネリーゼ・ミシェルの悪魔祓い」の音声も恐ろしいです。アンネリーゼが衰弱死してしまうという悲劇に終わった事件で、エクソシストと両親は適切な処置をとらなかったとして投獄されました。本作品にはアンネリーゼの痛ましい写真も添えられていて圧巻です。

 音楽作品ではありませんけれども、音声の伝える情報量の多さという点では音楽に匹敵するものがありそうです。この上なく丁寧に採集され、選定されたトラックの数々は一つ一つが物語を宿しています。惜しむらくは恐山の音声がないことでしょうか。

Spectra Ex Machina Vol. 1 (2024 Sub Rosa)



Tracks:
01. アーサー・コナン・ドイルの心霊学
02. 霊媒グラディスオズボーン・レナードによるインド人の子供「フェダ」の降霊
03. オーストリアの霊媒ルディ・シュナイダーによるトランス
04. 奇術師ハリー・フーディーニ死後の最後のステージ
05. 霊媒アイビー・カーター・ボーモントによる古代エジプトの霊の語り
06. 霊媒アイナー・ニールセンによる「アストリッド」と「ビショフ・リリエブラッド」の声
07. 霊媒レスリー・フリントによるオスカー・ワイルド交霊
08. メニー・グレゴワールのラジオ番組での降霊術
09. ローゼンハイム邸のポルターガイスト事件
10. 心霊事件簿「Tb」
11. 心霊事件簿「S」
12. 心霊事件簿「P」
13. 霊によるノック音
14. エミール・ティザネによる幽霊屋敷の報告
15. 死霊にとり憑かれたジャネット・ホジソンの声
16. 少年ドミニクと「喋る壁」
17. 司祭アルノルト・レンツによるアンネリーゼ・ミシェルの悪魔祓い
18. デニス・ルノダンによる幽霊屋敷の調査書
19. 霊媒ジャック・サットンによる幽霊飛行士の音声
20. 超常現象