リッチー・ブラックモアの脱退という衝撃を乗り越えた第4期ディープ・パープルのデビュー作「カム・テイスト・ザ・バンド」です。そして、この作品を語る評論や感想文の大半は、このアルバムがディープ・パープルの名にふさわしいかどうかを語ることに費やされています。

 発表当時は「らしくない」とした酷評が多かったと記憶していますが、今は、パープルらしくないけれども、これはこれでなかなか良いアルバムだという後ろめたさに彩られた論調が多いです。バンド名を変えていたら、こんな煩わしいことはなかったでしょうに。

 しかし、バンド名を変えていたらここまで売れたかどうかは分かりませんから、まあセールス的にはディープ・パープルを名乗ったのは正解だったのでしょう。ちなみに、この中から三人が参加したホワイトスネイクは最初かなりの苦戦を強いられています。

 本作品では、ギパープル・サウンドそのものだったブラックモアの脱退ですから、これまでとはインパクトが違います。一旦は解散する話も出ていましたが、メンバー間の話し合いの末、デヴィッド・カヴァーデルを中心とする続行支持派が勝利を収めました。

 そして白羽の矢が立ったのが、アメリカ人トミー・ボーリンでした。イーグルスのジョー・ウォルシュがいたバンドに後釜で入った人ですから、パープル路線とは随分違う出自です。事実、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」しかディープ・パープルの曲を知らなかったそうです。

 ボーリンはブラックモアに比べれば格段に明るくて派手なギターを弾きまくっています。ほとんどの曲作りにも係わっていますし、サウンドの要として大活躍しています。カヴァーデルとの相性もぴったりで、前作よりもストレートなハード・ロック・アルバムを作り上げました。

 パープル・サウンドのもう一つの要であったはずのジョン・ロードは本作品ではわずか1曲しか作曲クレジットはありませんし、いつものクラシカルなテイストのキーボードはほとんど目立ちません。むしろファンキーなシンセ・ソロでアメリカン・テイストに掉さしています。
 
 そんなわけで、力作ですけれどもディープ・パープルらしくない作品になりました。パープル・ファンの風当たりはきつく、とりわけ重責を担ったボーリンは傷つくことも多かったようです。もともとドラッグに手を出していたボーリンは深みにはまっていってしまいました。

 ついでにベースのグレン・ヒューズも本来はボーカリストなのに、リードでなかったことを不満に思ってドラッグに手を出していたということです。こうしてバンドは蝕まれていきました。結局、この第四期ディープ・パープルはほどなく解散してしまいました。

 このあたりもバンド名を変えていれば避けられたかもしれないと思うと複雑です。名前と言うものはまことに重たいものがあります。相撲の四股名や歌舞伎の名跡など伝統芸能の世界に通じるものをこのロック界にも感じます。イエスとディープ・パープルの四股名は永遠です。

 本作品は、パープルの名前を意識せずに聴いてみると、カヴァーデルのソウルフルな歌声に、カラフルなボーリンのギターがさえわたる素敵なロック・アルバムに間違いありません。ロードすらファンキーに舵をきったアルバムとして紫の歴史上特異なアルバムです。

Come Taste The Band / Deep Purple (1975 Purple)

*2014年6月20日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Comin' Home
02. Lady Luck
03. Getting' Tighter
04. Dealer
05. I Need Love
06. Drifter
07. Love Child
08. This Time Around / Owed To 'G'
09. You Keep On Moving

Personnel:
David Coverdale : vocal, guitar
Tommy Bolin : guitar, bass, vocal
Jon Lord : keyboards, piano, synthesizer
Glenn Hughes : bass, vocal
Ian Paice : drums, percussion