学生時代、アルバイト先で知り合ったその男は、黒地のレインボーTシャツに身を包み、蛇皮のサンダル、ベルボトムのジーンズ、ウェーブのかかったロン毛という出で立ちでした。「レインボーが好きなのか」と聞いたところ、ニカっと笑って「リッチー最高!」。

 休憩時間にはエアギターをかき鳴らす彼は、日本公演は全国の全公演を見に行ったと言ってました。ロックマガジンなどを読んでいた私には、迷いのない彼の姿はとても眩しく映りました。それまで持っていたヘヴィ・メタルへの偏見を一掃してくれました。

 ギター・ヒーローは数多く存在しますけれども、こうした熱狂的なファンの存在が最も似合うのはリッチー・ブラックモアではないかと思います。完全にあっち側の人間ではなく、私たちが仲間意識を感じることができるヒーロー。超然としていてなお親しみやすい。

 本作品はディープ・パープルを離れたブラックモアが結成したバンド、その名もリッチー・ブラックモアズ・レインボーのデビュー・アルバム「銀嶺の覇者」です。ただし、ブラックモアは「決然とパープルを脱退して、心機一転、新バンドを結成した」というわけでもないようです。

 ブラックモアはパープルの「嵐の使者」を制作する際に、プログレ・バンド、クォーターマスの「黒い羊」をカバーすることを提案しますが、これがバンドに拒否されます。そこで、ロニー・ジェイムス・ディオをボーカルに迎えて、この曲を録音して発表することを考え付きました。

 ディオはパープルの前座の常連となっていたアメリカのバンド、エルフのボーカリストです。結局、ディオのみならずエルフのメンバーを起用して、「黒い羊」が録音されます。見事な仕上がりに気をよくしたブラックモアはこのメンバーでアルバムを作りました。それが本作品です。

 ブラックモアはアルバムが完成してから正式にディープ・パープルを脱退しています。そうして、このバンドがリッチー・ブラックモアズ・レインボーとなりました。気の毒なのはエルフです。メンバーがごっそりと引き抜かれたわけですから、バンドは消滅してしまいました。

 卓越したボーカリストであるディオはブラックモアと大半の曲を共作していますからまだしも、他のメンバーは実は本作品だけで解雇されてしまいますから、迷惑な話です。ましてや、レインボーにも入れなかったギタリストのスティーヴ・エドワーズの心中を慮ると...。

 そんな経緯に心中は複雑ですけれども、やはり本作品はなかなかの傑作です。最高傑作の誉れ高い次作の影に隠れているものの、ディオとブラックモアの邂逅は初物の魅力にあふれています。アルバムは重厚感に満ちたハード・ロックに貫かれています。

 ディープ・パープルのサウンドとはやはり少し違います。よりブルース寄りですし、リズムもより落ち着いています。ブラックモアはこれでもかこれでもかとさまざまなスタイルでギターを弾きまくっています。「へび使い」なんてまるでチャルメラのようなギターですしね。

 ディオのボーカルは迫力がありますし、人気の高い「王様の神殿」や重厚なバラード「虹をつかもう」を始め、何よりも曲がいい。ブラックモアがこの時点でやりたかったことをぎっしりと詰め込んだ作品だけに、ソロとしての初心が光るアルバムになりました。かっこいいです。

Ritchie Blackmore's Rainbow / Ritchie Blackmore's Rainbow (1975 Oyster)



Tracks:
01. Man On The Silver Mountain 銀嶺の覇者
02. Self Portrait 自画像
03. Black Sheep Of The Family 黒い羊
04. Catch The Rainbow 虹をつかもう
05. Snake Charmer へび使い
06. The Temple Of The King 王様の神殿
07. If You Don't Like Rock 'n' Roll もしもロックがきらいなら
08. Sixteenth Century Greensleeves 16世紀のグリーンスリーヴス
09. Still I'm Sad

Personnel:
Ronnie James Dio : vocal
Ritchie Blackmore : guitar
Micky Lee Soule : piano, mellotron, clavinet, organ
Craig Gruber : basss
Gary Driscoll : drums
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Shoshana : chorus