「90年代のジャパニーズ・ノイズ・シーンを彩ったノイズ・プロジェクトMO*TE」のアルバム「キル・ザ・サン」です。MO*TE、MOとTEが分かれているので、モテと読むのかもしれませんが、ここはモウト、塵という意味に読んでおきたいと思います。

 モウトは名倉史之の別名です。ディスコグラフィを確認すると、最初のシングルは1995年、アルバムは1996年に発表されており、以降、結構な数の作品を量産しています。モウトの音楽はいわゆるノイズ・ミュージックですから、多作も珍しいことではありません。

 本作品「キル・ザ・サン」は2019年11月から2020年3月にかけて録音及びミックスがなされています。収録は全1曲1時間ですから、一気呵成に録音されたのか、それとも何度かに分けて録音したものを編集したのか、どちらかですが、そこはよく分かりません。

 発売元は米国テキサス州にあるノイズ・ミュージックを専門に扱うレーベルからです。面白いことに通常のCD用のジュエルケースではなく、DVD用のケースに入って売られています。また、200枚限定ハンドナンバー入りとされていますが、ハンドナンバーが見当たりません。

 さらに8ページに及ぶブックレットが付属していますが、モノクロ印刷の簡素なもので、主に写真が掲載されています。その写真には公園のジャングルジムのようなオブジェにパラボラ状の集音器が付けられ、そこに向かってマイクを突っ込む男の姿が写っています。

 ノイズを集音するフィールド録音のようにも見えます。また、特定できませんが、某空港に設置してある風車様のオブジェの写真もあります。MVにもその光景が写っているので、本作品のサウンドにそのフィールド録音が反映されているのかもしれません。

 またジャケットを開くと、モウトのステッカーが貼ってあります、ピエロが大太鼓を叩こうとしており、その太鼓には「ハーシュ・ファッキング・ノイズ・ヴァイブス」とのキャッチフレーズが書かれています。とてもユーモラスであり、かつ音を説明しているという意味で丁寧で親切です。

 本作品は「名倉史之の脳みその暗い霧の中でその精神に分け入る60分間の壮大な旅」であり、「彼の周りのすべてがここに詰まっている」と解説されています。その解説の通り、60分間、まったく切れ目なく、潔いまでにハーシュ・ノイズの壁が屹立しています。

 そうなんです。このサウンドを前にすると、潔いという言葉が自然に浮かんでくるんです。サウンドにアクセントをつけてみようとか、変わったサウンドを入れてみようとか、そうした考えは毛頭ないようです。自らの脳みそに没入する60分間ということなのでしょう。

 変な言い方ですけれども、ハーシュ、つまり荒々しいホワイトノイズによるウォール・オブ・サウンドだといえます。60分間、このサウンドに浸っていると、いい気持ちになってきますし、終了したときの爽快感がたまりません。ピュアなノイズ・サウンドの効用でしょう。

 名倉自身の情報はあまり見つけられませんでしたが、フェイスブックにて発信されているのをみかけました。筋金入りのノイズ野郎のようですが、大西桃香をフォローしているところに大そう親近感を覚えてしまいました。AKB卒業後も応援していきましょう。

Kill The Sun / MO*TE (2023 Dada Drumming)



Tracks:
01. Kill The Sun

Personnel:
名倉史之