ハード・ロック仕様になったディープ・パープルの二枚目のアルバム「ファイアボール」です。このジャケットはイギリスの権威ある音楽誌NMEにベスト・デザイン・ナンバー・ワン・アルバム賞を授与されたそうです。何ともとほほなジャケットなのにマジですか?

 前作「イン・ロック」の成功に気を良くしたバンド、というよりもレコード会社にせかされて、ほとんど休みなく制作されたアルバムです。前作もそうでしたが、今回もツアーの合間を縫って制作されたため、1年近く時間がかかってしまっています。せかされたのに。

 しかし、メンバーは忙しくて構想を十分に練る暇がなかったというようなことを言っています。もともとライブを重視するバンドでしたから、アルバム制作よりもライブに力を注いでいたということでしょう。ライブが楽しくて仕方がないというような感じでしょうか。

 前作で我が道を見つけたパープルの面々でしたけれども、今回は前作の流れにあるものの、とてもバラエティーに富んだ作りになりました。それも、ボブ・ディランのような曲が入っているんです。第一期の散らかり具合とは広がる方向が随分違います。

 冒頭に置かれたタイトル曲や、シングルとしてヒットした「ストレンジ・カインド・オブ・ウーマン」、それにライヴの定番となる「ミュール」などは、前作と同じハード・ロック路線で、アルバムの白眉となっています。いかにもディープ・パープルらしい曲だといえます。

 しかし、「ストレンジ・カインド・オブ・ウーマン」はイギリス盤には入っておらず、「デイモンズ・アイズ」という曲に置き換わっています。英米盤で曲が異なるというのは1971年くらいだと少し珍しい部類に入ります。どたばたとした背景があったようです。

 ディランのような曲というのは「誰かの娘」のことです。加えて「誰も来ない」はイアン・ギランが語りかけるプログレ的なノリの曲だったりします。普通、忙しいと同じような曲調になるのではないかと思いますが、彼らの場合は、個人個人の趣味が前に出てしまうんでしょうね。

 というわけで、気持ちよさそうにディランっぽく歌っているギランを除いて、メンバーによるこのアルバムの評判はよろしくありません。ファンの間でも今や比較的無視されているアルバムです。ハード・ロックの帝王的なパープル像が頭にあるとそうなるのも分かります。

 しかし、発表当時、イギリスでは見事に1位を獲得しました。大成功です。当時はまだハード・ロックというジャンルも確立していたわけではありません。みんなが競ってプログレ的な実験を行っていた時代ですから、ごく自然に受け止められたのだと思います。

 とはいえ、本作品に影響を受けたと語るアーティストも多く、中にはイングヴェイ・マルムスティーンやメタリカのラース・ウルリッヒなどの超大物もいます。イアン・ギランが本領を発揮してその個性が前面に出ているため、ややパープル道から外れるものの、私も結構好きです。

 なお、よく言及されますが、タイトル曲の冒頭にはエアコンの音が入っています。これは後にポスト・パンクのワイヤーのプロデュースなどで知られるマイク・ソーンがアシスタント時代に録音したトラックだそうです。「西ウズベキスタン・パーカッション・アンサンブル」と名付けて。

Fireball / Deep Purple (1971 Harvest)

*2014年6月11日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Fireball
02. No No No
03. Strange Kind Of Woman
04. Anyone's Daughter 誰かの娘
05. The Mule らば
06. Fools 愚か者たち
07. No One Came 誰も来ない

Personnel:
Ritchie Blackmore : guitar
Ian Gillan : vocal
Roger Glover : bass
Jon Lord : keyboards
Ian Paice : drums